第4章 治療

第1節 薬物療法

第1節 薬物療法

抗凝固療法

心房細動になると心臓内の血流が滞り、血液の塊である血栓ができやすくなります。これが脳動脈に詰まると脳梗塞を発症します。他のタイプの脳梗塞に比較し、重篤になることが多く、壊死する脳の範囲によっては、強い麻痺が残り、場合によっては亡くなります。

そのため、心房細動と診断されたらまず、血液の凝固を防ぐ抗凝固薬の投与が検討されます。検討に当たっては、脳梗塞のリスクをはかる「CHADS2(チャズ)スコア」という指針が用いられます(下表)。

高血圧や糖尿病の有無など、脳梗塞の発症リスクに関わる項目が点数化されており、該当する項目の点数を加算してスコアを求めます。スコアが大きくなるほど、脳梗塞発症リスクは高くなります。そしてスコアが1点以上であれば、抗凝固薬投与を考慮することになります。

ただし、使われる薬剤は、スコア1と、スコア2以上で違いがあります。スコア1には、DOAC(Direct oral anticoagulant)を、スコア2以上には、ワルファリンかDOACを使用します。

うっ血性心不全 1
高血圧 1
75歳以上 1
糖尿病 1
脳梗塞の既往 2

それぞれの患者さんが、上記表の5項目の内、どれを持ち合わせているか調べます。それに該当する点数を足して、合計が1〜2点以上なら抗凝固療法を考慮します。

リズムコントロール

リズムコントロールとは、心房細動そのものを起こらないように、または、起きてもすぐに治るようにする治療方法です。これは抗不整脈薬と呼ばれる薬が使われます。

この治療は一般的に、心房細動による動悸症状を自覚する患者さんに対して行われるものです。

心筋が興奮する際には、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオンという3つのイオンが、細胞膜に空いている穴(チャンネル)を移動しています。これらのイオンの出し入れがないと心筋は興奮できないのです。

抗不整脈薬とは、これらの3つのイオンのどれかが、もしくは複数が、チャンネルを通りにくくすることで、心筋の興奮を抑制します。

不整脈が起きる時は、心房細動起源が興奮したり、電気が心房の中をグルグルと旋回したりしています。この時、心筋は次から次へと興奮しながら、電気刺激を伝えています。

抗不整脈は、この興奮を抑えることで、心房細動起源の発症や、電気刺激の旋回が起こらないようにしているのです。

心筋の興奮を抑制するので、一般的に抗不整脈薬は心臓の収縮力を弱めます。また、洞結節の機能も低下させてしまい、洞不全症候群を引き起こすことがあります。

すべての薬剤に副作用はつきものですが、抗不整脈薬は催不整脈作用といって、不整脈を止めるために使用したのに、別の更に危険な不整脈(心室頻拍、心室細動)を引き起こすという、他の薬には認められない皮肉な副作用が起こりえます。

この催不整脈作用という、重篤な場合は、死に至るような副作用を認めることより、抗不整脈薬は、自覚症状の強い、発作性心房細動患者さんか、比較的持続期間の短い持続性心房細動患者さんに対して投与されるのが一般的です。

持続期間の長い、持続性心房細動や、1年以上、心房細動が継続しているような慢性心房細動になってしまうと、抗不整脈薬を投与しても、電気ショックでも追加しない限り、薬だけで心房細動が停止することはまずありません。

時折、私達にカテーテルアブレーション目的で紹介されてくる慢性心房患者さんの中に、長期間、抗不整脈薬が投与されたままの患者さんがいます。これは間違った投与方法です。抗不整脈薬はあくまで、洞調律を維持、もしくは戻すことを目的としているので、それがかなわないならば、しばらくして投与を中止しなければなりません。担当医師がおそらく、「不整脈だから抗不整脈薬を投与すべき」と間違った認識をしているためと思われます。

抗不整脈薬のとんぷく療法

心房細動の発作頻度は人により大きく差があります。多い人ではほぼ毎日のように発作が起こりますが、少ない人では1年に1回程度です。この、年1回程度の発作のために、それを予防する薬剤を毎日内服するのは効率的ではありません。また、先ほど述べたように、抗不整脈薬には副作用があります。長期間内服することで、副作用出現の可能性は高くなります。

そこで、こうした発作の頻度が低く、発作の時間も比較的短い人に対しては、継続的な薬の内服ではなく、抗不整脈薬をとんぷくとして用いることがあります。つまり、発作が起こったときだけ、それを抑えるために薬をのむという方法です。ちなみに英語では「pill in the pocket」といいます。直訳すると「丸薬をポケットに」となります。

とんぷくにはおもに、下表に挙げた抗不整脈薬を使います。ただしいずれも、継続的な服用の場合より、1回に内服する量が多くなります。発作が起こったとき、それを止めるためには、血中の薬の濃度を一気に、有効濃度(心房細動を止める効果を発揮する濃度)まで上げなければなりません。そのためには、通常の2〜3倍の量を一度に内服する必要があるのです。この方法を用いれば、点滴を受けたのとほぼ同じ程度に、薬物血中濃度が上昇します。

ところが、医師が、もしくは患者さんが、通常の2〜3倍の薬剤量に、漠然と不安を感じ、通常の一回量しか処方、もしくは内服しない場合があります。量を減らしたのでは、とんぷくとして発作を止める効果は期待できません。ときおり、少量でも発作が止まったとおっしゃる患者さんはいますが、その場合はもともと、短時間でおさまる発作だったと考える方が妥当です。

なお、とんぷくで効いているからといって、何年も使い続けていると、やがて効かなくなります。これは薬の耐性が出現したからというよりは、心房細動そのものの病態が進行し、とんぷくでは治まらなくなってきたことによるものが大半です。

レートコントロール

リズムコントロールに対し、心房細動はそのままにして、心房細動による心拍数が速くならないようにする治療が、レートコントロールです。使用されるおもな薬は、「カルシウム拮抗薬」、「β受容体遮断薬」、そして「ジキタリス」です。

レートコントロール治療の目標心拍数

心拍数を適切な数に調整する治療がレートコントロール治療です。ではどのくらいが適切なのでしょうか。

まず認識していただきたいことは、心拍数と脈拍数は一致しないということです。心拍数が速くて不規則だと、心拍によっては心臓が収縮して拍出される血液の量が少なく、脈拍を形成するに至らないものも存在します。この状態を空打ちといいます。心房細動患者さんが自分の脈拍数を数えても心拍数は不明です。心拍数は、聴診器で心臓の拍動を聞くか、心電図を取らないと分かりません。ただし、洞調律の人は、心拍数と脈拍数は一致します。

かつて心房細動患者の目標心拍数とは安静時に90拍/分以下といわれてきました。心臓は体が必要とする血液の量が増したとき、心拍数を上昇させることでそれに応えようとします。しかし、実際には心拍数が90拍/分までは心拍出量は増加しますが、それ以上になると逆に心拍出量は減少します。そのため、コストパフォーマンスを考慮すると、心房細動患者の心拍数は安静時で90拍/分以下とするのがよいと考えられていました。実際つい最近まで、日本循環器学会のガイドラインにもそのように記載されていました。

しかし、この心拍数は臨床試験医基づいて、導き出されたものではありません。そこで約600人の患者さんを安静時の心拍数が80拍/分以下にする厳格調整群と110拍/分以下にする寛大調整群の2群に分けて、3年間の死亡率、症状増悪による入院頻度、脳梗塞発症率などを比較した研究が行われました。結果はそれらのイベント発症率は両群間で有意差は認められなかったのです。寛大調整群は心拍数調整のための薬剤が少なくて済むので、現在では目標心拍数は110拍/分以下で十分と考えられています。

余談ですが、私が研修医の頃には、心不全は心臓の収縮力を高める強心剤による治療が最良で、生命予後を改善させると信じられていました。しかし、その後、それは無効で、逆に心臓の収縮力を弱めるβ受容体遮断薬治療が生命予後を改善させることが明らかとなりました。「昔の常識、今の非常識」です。心房細動患者の目標心拍数も然り。常識を疑い、新たな仮説を立て、それを検証した医師に感謝です。

AFFIRM試験

かつての心房細動治療は、抗不整脈薬や電気ショックを使用し、洞調律に戻す「リズムコントロール治療」が主流でした。しかし2000年頃の研究により、その治療が必ずしも患者さんの生命予後を改善させるわけではないことが分かってきました。

その研究は、循環器医の間ではとても有名な「AFFIRM(アファーム)試験」といいます。4060人の患者さんを2群に分け、一方の群には、抗不整脈薬や電気ショックで洞調律に戻す「リズムコントロール治療」を、もう一方の群には、心房細動はそのままに、安静時の心拍数を80拍/分以下に維持する「レートコントロール治療」を行い、5年間観察し、死亡者数を比較するというのがこの試験の概要です。レートコントロール治療に用いられる薬は、前述したカルシウム拮抗薬、β受容体遮断薬、ジギタリスです。

第1章で心房細動は死亡リスクを2倍に高めると申しました。そうであれば、心房細動を洞調律に戻すリズムコントロール治療を受けた患者さんのほうが、レートコントロール治療を受けた患者さんよりも、死亡率は低くなるはずです。ところが、試験の結果、この2つの治療方法には、死亡率において差がないことが明らかになったのです。(図表1)

この研究結果が報告されて以降、症状の乏しい持続性、慢性心房細動に対しては、無理に洞調律に戻さず、心房細動はそのままで、心拍数だけ速くならないようにするレートコントロール治療で十分という考えが、医師の間で急速に広まりました。

このような結果になった理由の一つは、リズムコントロール治療で洞調律に維持され、死亡率が低下しても、使用された抗不整脈薬の副作用(心機能低下、間質性肺炎、催不整脈作用)によって、その効果が相殺されたことにあるのではないかといわれています。

(図表1)
(図表1)

AFFIRM試験の誤解

このAFFIRM試験の結果が公表されてから、循環器医の間では心房細動を洞調律に戻そうという意欲が急速に冷めてきました。心房細動による症状が強い患者さんにも、「リズムコントロールを行おうが、レートコントロールを行おうが、あなたの死亡率は変わらないから、心房細動のままで我慢しなさい」という説明がまかり通るようになってきたのです。患者さんにとっては、このつらい症状をなんとかしてほしいと思っているのに、とんでもない話です。

AFFIRM試験は、Intention to treat analysisという方法で解析されました。これは、治療を行った結果、洞調律に復したのか、それとも心房細動のままだったのかは完全に無視します。「リズムコントロール」「レートコントロール」のどちらの治療を選択したのかという観点から、死亡率を比較したのです。つまりは、心房細動と洞調律の死亡率を比べたわけではないのです。

Intention to treat analysisの反対が、On treatment analysisという解析方法です。これは、治療の結果、洞調律に復した患者さんと、心房細動のままだった患者さんの死亡率を比べる方法です。これでAFFIRM試験を再度解析すると、どちらの治療方法を選ぼうが、結果的に洞調律に復した患者さんのほうが、心房細動のままだった患者さんよりも、死亡するリスクは半分になったのです。

もう少し細かい解析をすると、抗不整脈薬を内服せずに洞調律を維持できた患者さんの死亡のリスクが最も低く、その次に、抗不整脈薬を使用して洞調律を維持できた患者さんの死亡率が低かったのです。たとえ抗不整脈薬を使用しても、洞調律を維持できれば、心房細動のままの患者さんよりは、死亡率は低かったということです。

まとめると、持続性心房細動、慢性心房細動の場合、死亡率を下げるという観点からは、抗不整脈薬と電気ショックを使用してでも、一度、洞調律に戻す治療を試みるのは、良い治療方法だということです。それで、その治療がうまくいかないなら、同じ方法を繰り返すのではなく、レートコントロール治療にしたほうがよい。また、抗不整脈薬を使用して洞調律がいじされているならば、あえて抗不整脈薬を中止して、元の心房細動に戻すような治療はよくないということです。

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