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失神外来

失神外来

失神の定義

失神とは「姿勢を保てなくなる短時間の意識消失発作」のことです。
意識消失時間は、8〜10秒で、長くても1〜2分です。そのあと、完全に意識は元の状態に戻ります。 このような症状の原因は、一時的に脳に十分な血液が行かないことです。
意識がなくなり、その後長時間(数時間〜数日)意識が戻らないものは失神とは言いません。てんかん発作の意識消失も短時間のこともありますが、姿勢が保持できる場合があり、意識が戻る時に、スパッとはもどらず、ゆっくりと徐々に意識が戻りボーッとしている時間が長い。意識が戻ったあとも頭痛があったり、吐き気があったりするのが、失神との違いです。

失神の原因

以下の4つがあります。

  • 反射性失神
  • 起立性低血圧
  • 不整脈
  • 心臓病、肺疾患

反射性失神

体への刺激(詳細は下記)に対する自律神経(副交感神経)の過度の反応により、血管が拡張し血圧が低下、もしくは心拍数が遅くなり、脳血流が低下し意識が消失します。 体への刺激とは、立位、強い感情(不安、恐怖、歓喜)、排便、排尿、首の伸展です。それぞれの刺激によって、血管迷走神経性反射、状況失神、頸動脈洞症候群と呼ばれていますが、基本的なメカニズムは皆同じです。

起立性低血圧

起立時に重力により、相対的に下半身に血液が偏り、脳血流が低下し意識が消失します。本来であれば、脳血流の低下に反応して、脳が命令を出し、自律神経を介して、血管が収縮し血圧を保ちますが、自律神経の働きが悪いと血管が十分収縮しません。このような状態になりやすいのは、高齢者、純型自律神経失調症患者、パーキンソン病患者などです。

不整脈

洞性徐脈、房室ブロック、心室頻拍、心室細動の不整脈によって、脳に血液が十分行かなくなり、意識が消失します。

心臓、肺疾患

大動脈弁狭窄症、急性心筋梗塞、肥大型心筋症、心房粘液腫、肺塞栓症などでは、一過性に脳血流が低下し、意識が消失します。

失神の診断

問診
症状の詳細から、意識消失が失神に該当するのかどうか判断します。ポイントは意識消失が短時間で、その後完全に意識がクリアになるということです。意識消失時の状態は、患者さん本人が良く分からないことが多いので、目撃者の話も参考にします。

意識消失発作が失神と診断されれば、失神を来す4つの原因のどれに該当するか、以下の検査を行います。

検査
胸部レントゲン写真、心電図、ホルター心電図、心エコー検査、血液検査、頸動脈洞マッサージチルト試験植込み型心電図検査

頸動脈洞マッサージ

頸部を後屈することによって失神発作を起こす頸動脈洞症候群の診断に有用です。仰向けの状態で心拍モニターをつけて、頸動脈洞と呼ばれる部分を医師が圧迫します。頸動脈洞症候群の患者さんは、圧迫に反応し、脈拍が極端に遅くなったり、5〜6秒の心停止を来したりします。この検査は原因不明の高齢者の失神発作の精査の一環として実施され、確定診断に至ることもあります。

チルト試験

反射性失神の中の血管迷走神経性反射の診断に有用な検査です。チルト台(図)という機器を用いて、60〜80度の立位を20〜40分間維持し、症状、血圧、心拍数を観察します。失神が起きたら反射性失神(血管迷走神経性反射)と診断されます。失神が起きなくても、気分不良となり、収縮期血圧が60~80mmHg以下に低下したり、収縮期あるいは平均血圧が20~30mmHg以上低下したりした場合陽性と判断しています。

チルト試験
患者さんはこの台の上に寝そべります。台は自動で角度をつけて起き上がり、失神した時に備えて、ベルトを巻いて実施します。

植込み型心電図検査

長さが44.8mm、幅が7.2mm、高さが4mm、重さ2.5gの超小型の心電計です(図)。前胸部の皮下に植え込み、不整脈をモニターします。植え込みに要する時間は5〜10分で、局所麻酔下で行います。挿入後の違和感はほとんどありません。不整脈の観察は24時間、365日、遠隔操作で行います。失神したときの、不整脈の有無が確認できます。

植込み型心電計
植込み型心電計

失神の治療

それぞれの診断に対応した治療を行います。
ここでは、学校の朝礼等での立位時に失神する、反射性失神の血管迷走神経性反射の治療方法をお示しします。

血管迷走神経性反射の治療

失神の予防は、失神発作を引き起こすような誘引(長時間の立位、脱水状態)を避けることです。薬物治療としては、βブロッカー、ジソピラミドが使用されますが、有効性には一定した見解がありません。40歳以上で、徐脈もしくは心拍停止を引き起こす血管迷走神経性反射を繰り返す患者さんには、ペースメーカー治療が有効です。また、失神を引き起こさいないようにする体質改善として、起立調節訓練法というものがあります。立位で壁に背中を持たれかけ、両足を壁から15 ~ 20cmほど前方に出します。これを1回あたり30分間、1日1〜2回、毎日繰り返します。長時間の立位で、血管迷走神経性反射が起きても、背中を壁に持たれかけているので、急に倒れることはありません。自律神経反射の慣れ効果により、過度な反射が起きなくなり、失神を起こさなくなります。この方法は一部の患者さんには非常に有効です。あまり効果の出ない患者さんもいますが、簡単な方法ですので、ダメ元で試してみても良いと思います。

起立調節訓練法
起立調節訓練法

【執筆】桑原大志 医師・医学博士
東京ハートリズムクリニック院長
日本不整脈心電学会認定不整脈専門医