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第3部 心房粗動

第3部 心房粗動

心房粗動とは

心房の中に傷ができて、そこを伝導する電気の旋回路ができてしまい、そこからの電気刺激により心室が興奮する不整脈です(図1)。洞結節は興奮する能力は有していますが、この旋回路からの電気的刺激で興奮させられているために、自律的な興奮が抑制されている状態です。電気的興奮がこの旋回路を1周するのに、0.2〜0.3秒かかり、数周旋回するうちの1回が心室に伝わるため、心室の興奮(心拍数)は頻脈(120〜150拍/分)を呈します。心拍動のリズムは心房の興奮が心室に伝わる比率により、規則正しくなったり、不規則になったりします。

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図1: 心房の中に電気の通り道(矢印)ができてしまいます。

心房粗動の症状

心拍数が上昇しているので動悸を自覚します。心拍数が速い状態が長期間続くと心機能が悪化し、労作時に息切れを自覚します。しかし、心房粗動になっても、心房興奮が心室に伝わる比率によっては、心拍数が上昇せず、尚且つ、心拍が規則正しく打ち、全く自覚症状のない方もいます。

心房粗動の原因

心房粗動の基本的原因は心房の一部に傷ができることです。
以下に代表的な原因を5つ挙げます。

  1. 抗不整脈薬の投与:心房細動(心房に傷ができて発症)の治療として、サンリズムやプロノンという抗不整脈薬を投与すると約15%の患者さんは、不整脈が心房細動から心房粗動に変化します。心房粗動になると、心房細動よりも自然に停止しずらくなり、不整脈の持続時間が長くなります。
  2. 基礎疾患:甲状腺機能亢進症、肥満、睡眠時無呼吸症候群、心膜炎、肺疾患、肺動脈血栓症などがあると心房に負荷がかかり、心房に傷ができて、心房粗動を起こすことがあります。
  1. 心臓外科手術:心臓外科手術後の急性期、慢性期に心房粗動が発症する可能性があります。手術の際に、心房に加えた切開線(傷)の周りに旋回路ができて発症します(図2)。
  2. 心房細動アブレーション:心房細動アブレーションで治療した部位(傷)の周囲を旋回するような心房粗動が起こることがあります。
  3. 原因不明:数%の患者さんは、上記のいずれにも当てはまらず、原因が良く分からない方がいます。しかし、その様な人でも、カテーテルアブレーション時に、詳しく調べてみると、心房には何らかの変性部位(傷)ができています。
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図2: 右心房の切開線の周囲を旋回する心房粗動
参考文献 Circulation. 1996;93:502-512

心房粗動の予後

心房細動と同様、脳梗塞の発症率が高くなります。心拍数が速い状態が続くと、心機能が低下し心不全を呈するようになります。

心房粗動の治療

大きく3つの治療方法があります。薬物治療、電気ショック治療、カテーテルアブレーション治療です。

薬物治療 脳梗塞を予防するために、抗凝固剤(ワルファリンやDOAC=イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)を内服し、心拍数調節療法かリズム調節療法のどちらかを行います。

心拍数調節療法 心房粗動そのものは治療しません。心房粗動のままで、心拍数を調節するために、ベラパミル(ワソラン)やβブロッカー(ビソプロロール、アテノロール、カルベジロール)を投与します。従来良く使用されていたジゴキシンは心不全でも合併しない限り、現在では余り使用することはありません。

リズム調節療法 心房粗動そのものを停止させる治療方法です。抗不整脈薬を内服し、停止を試みます。
しかし、抗不整脈薬(サンリズム、タンボコール、プロノン、リスモダン、シベノール、ピメノール)を単独で使用すると、電気刺激が旋回路を1周する時間が延長し、心房興奮が心室に伝わる比率が2:1から、1:1になり、逆に心拍数が速くなることもあります。
それを予防するために、ベラパミルかβブロッカーを一緒に投与するのが一般的です。ただし、アミオダロンの場合は同時に心拍数も遅くなるために、単剤で使用され場合もあります。

電気ショック治療 電気ショックにより、強制的に心房粗動を停止させます。確実な治療方法ですが、心房の傷そのものを治療する訳ではないので、根治療法にはなりません。

カテーテルアブレーション治療 心房粗動の旋回路を明らかとし(図1)、回路の一部に電気が通れなくなるようなブロックライン(図2)を作成し、心房粗動を停止させます。根治療法です。
当院で行っている心房粗動に対するカテーテルアブレーション:全身麻酔下で、頸部と大腿部の静脈からカテーテルを挿入します。
3次元マッピングシステム(カルト)とペンタレイカテーテルを使用し、心房粗動の回路を明らかにします(図1)。アブレーションカテーテルで回路の一部にブロックライン(図2)を作成します。手術成功率は90~95%です。合併症は、血栓塞栓症が0.1%、心タンポナーデ0.2%です。

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(図1)
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 (図2)

※図表の説明
70歳の女性が、僧帽弁閉鎖不全症に対する手術を行われました。術後に心房粗動が発症し、急性左心不全を呈したため、当院へ紹介されました。カルトとペンタレイを用いたマッピングを行うと、手術の際に結紮された左心耳の付け根の周囲を旋回するような電気回路(図1)によって心房粗動が持続していることが判明しました。その付け根の部分と僧帽弁輪をつなぐようなブロックライン(図2)を作成することで心房粗動は停止しました。

【執筆】桑原大志 医師・医学博士
東京ハートリズムクリニック院長
日本不整脈心電学会認定不整脈専門医