5-1 心室性期外収縮のメカニズム
心室性期外収縮とは
脈拍が飛ぶような、抜けるような感じになる不整脈です。図1に心室性期外収縮の人の心電図を示します。矢印の部分が心室性期外収縮です。形が他のものと変わっています。心室に刺激の発生源があり、正常の心拍に混ざり脈の不整を起こします。
心室性期外収縮の原因
直接的な原因は、心室に不整脈の発生源があることです(図2)。この発生源を作ったり、活発化させたりする原因としては、高血圧、心臓病、肺疾患、喫煙、飲酒、不眠、カフェインなどです。
図2: 心室性期外収縮の発生源(起源)が右冠尖にあります。これは術中に作成した心臓の3次元画像で、カルト像と言います。この画像と局所の電位を見ながら、どこに発生源があるのかを探し、アブレーションを実施します。
心室性期外収縮の頻度
ホルター心電図検査を実施するとほとんどの人に認められます。全くない人の方が珍しいくらいです。しかし、全心拍数の20%を超える数の心室性期外収縮を有する人は全人口の2%未満程度です。
心室性期外収縮の症状
「脈が飛ぶ(結滞)」、「心臓がドキンと大きく動く」、「布団に寝ているときやソファーに寝そべっていると上体が動くのを感じ、地震が起きているような気がする」などです。これらの症状をとても不快に感じる人もいますし、ほとんど気にならない方もいます。また、心室性期外収縮が多く、心機能が低下し始めると、動いた時に呼吸困難、息切れを自覚するようになります。
心室性期外収縮の予後(予想される症状の経過)
心室性期外収縮の数が1,000発/日以上になると突然死の可能性が、正常脈拍の人の2倍に上昇します。また、10,000発/日以上になると、20%の患者さんは心機能が低下します。
5-2 心室性期外収縮の治療
心室性期外収縮の治療
心室性期外収縮の原因となるような基礎心疾患がある場合は、その治療を優先します。適切な治療により不整脈は改善する可能性があります。
基礎心疾患がない場合、症状もなく、心室性期外収縮の頻度も多くなければ放置しても問題ありません。しかし、「不快な症状がある」方や、症状がなくても心機能が徐々に低下してくる可能性のある「心室性期外収縮の頻度が多い(10,000発/日以上)」の方は治療の適応となります。
治療方法
心室性期外収縮の治療方法は二つあります。薬物療法とカテーテルアブレーションです。
薬物療法
βブロッカー(ビソプロロール、アテノロール等)、ワソラン、ヘルベッサー、抗不整脈薬です。抗不整脈薬は心筋梗塞の既往がある患者さんには禁忌です。致死性不整脈を引き起こす可能性があるからです。しかし、残念ながらどの薬剤も、不快な症状が軽減する効果はありますが、突然死を予防する効果や、心機能を改善する効果はありません。
カテーテルアブレーション手術
カルトシステムという3次元マッピングシステム(図2)を使用し、手術中に出現している心室性期外収縮の発生場所を同定し、高周波通電により焼灼し根治する治療です。そのため、術中にある程度、少なくても1分間に1回は、心室性期外収縮が出ていないと、場所を同定できません。
手術成功率は心室性期外収縮の場所によりことなります。一般的な場所(心臓の内側)であれば、90%以上の成功率です。しかし、起源が心臓の外側にある場合は、治療成功率は50〜80%程度になります。心室性期外収縮の起源が心臓の内側か外側にあるかは、心電図でおおよそ推測可能です。
【当院で実施する場合】
全身麻酔下で実施しています。心室性期外収縮の場所によっては、治療が長引き手術時間が数時間に及びます。その間、仰向けで、動かずにベッド上で寝ているのは、とても苦痛です。そのため、全身麻酔をかけています。
また、手技中に患者さんが深く息を吸うと、心臓が大きく上下に動き、カテーテルが心筋に強く当たってしまい、心臓に小さい穴があくようなことがあります。心タンポナーデという合併症です。特に心室性期外収縮の好発部位には、薄い心筋のところが存在し、そのような部位では心タンポナーデの発生リスクが高く、全身麻酔が安全なアブレーションに貢献します。
カテーテルアブレーションの効果
「不快な症状」があった方はそれが消失します。術前は「症状がない」と言われていた多くの方も、アブレーションにより心室性期外収縮が消失すると、「胸がすっきりした」と感じています。また、心室性期外収縮があり、心機能が低下していた人は、アブレーション治療により心機能が改善してきます。
【執筆】桑原大志 医師・医学博士
東京ハートリズムクリニック院長
日本不整脈心電学会認定不整脈専門医
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