第4章 治療

第2節 カテーテルアブレーション

第2節 カテーテルアブレーション

高周波カテーテルアブレーションの原理

電気を流すと、カテーテル先端周囲の心筋が白く変性していきます。これが心筋を焼灼しているようすです。

カテーテルアブレーションの原理をご説明します。まずカテーテル先端についている電極を心臓に当てます。次にその電極と脇腹に貼った対局板との間に電気を流します。電極と心臓、対極板と脇腹との間では電気のやりとりがなされるので、そこで熱を発生します。カテーテルについている電極は小さく、電流密度が高いので、高熱となり、それと接触した心筋もやけどをします(動画)。心臓がやけどする範囲は直径5mm、深さ5〜8mmです。対極板が貼られた脇腹でも熱が発生しますが、対極板は大きいため電流密度が低く、温度も低いのでやけどはしません。

心房細動アブレーションの方法

心房細動のメカニズムのところで述べたように、心房細動は、心房細動起源や、心房細動基質ができてしまうことで起こります。カテーテルアブレーションとは、この心房細動起源や心房細動基質を探し出し、そこにカテーテルの先端を押し付けて、電気を流し、その心筋を焼灼する治療です。

完璧な設計図 3次元ナビゲーションシステム

左がカルト像で右がそれに対応する実際の解剖です。カルトを使用すると極めて正確な心臓の解剖情報を獲得することが可能です。
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立体的な構造物の心臓の中の状態をどの様に把握して、アブレーションカテーテルを操作し、心筋を焼灼しているのか。以前ならば、レントゲンと手の感覚がすべてでした。私がカテーテルアブレーションを始めた頃は、それしか頼るものがなかったのです。

しかし、最新の機器を使用すると、心臓の中の様子は極めて明瞭に把握できます。それが3次元ナビゲーションシステムというもので、CARTO(カルト)とよばれます。米国のジョンソン・エンド・ジョンソン社が開発しました。

原理はカーナビゲーションシステムと同じです。心臓の周りに磁場を作成し、カテーテル先端に植えこまれたセンサーの位置を把握します。

カテーテルアブレーション時には、まずペンタレイという5本のスパインが伸びたカテーテルで、心臓の内面全体をなぞります。カルトは1秒間に60回という高速で、カテーテル先端の位置と電気情報を取得します。心臓全体にカテーテルが行き届けば、心臓の内面が1〜2mmの誤差の範囲内で描き出されます(下図)。

アブレーションする時には、その描き出された心臓の絵を元に、アブレーションカテーテルを必要な場所に持って行き、焼灼するという手順です。

心房細動起源の見つけ方



赤丸が心房細動起源もしくは、頻回に出現する心房性期外収縮が存在する場所です。
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心房細動起源を見つけるためには、手術中に心房細動が起きてくれなくてはいけません。そのために最良の方法が「高用量イソプロテレノール負荷」です。イソプロテレノールとは、交感神経を刺激して、脈拍が速くなり、心臓の収縮力が高まる注射です。通常の使用量は1μg/分ですが、その20倍の量を投与すると、心房細動患者さんの90%で心房細動が誘発されます。

この方法は、狭心症や閉塞性肥大型心筋症の患者さんには禁忌です。しかし、ほとんどの患者さんで、安全に施行可能です。この方法を使用することにより、心房細動起源の場所が明らかとなります。

発作性心房細動患者70人にこの「高用量イソプロテレノール負荷」を実施し、心房細動起源の場所を1人ずつ探してみました。結果、心房細動起源の多くは、肺静脈(肺で酸素を取り込んだ血液が心房に戻る時に通る血管)に存在することが判明しました。また、すべての心房細動細動起源を100とすると、肺静脈起源は85%程度で、15%はそれ以外のところに存在することも明らかとなりました。

また、心房細動起源は、1人の患者さんに1か所とは限りません。複数有している人も多くいます。これまでの研究をまとめると、発作性心房細動患者さんの4人に1人は、肺静脈以外にも心房細動起源を有していることが分かっています。

肺静脈隔離術

85%の心房細動起源が肺静脈に存在するので、心房細動カテーテルアブレーションにおける主な焼灼部位は、肺静脈になります。

以前は、肺静脈内の心房細動起源を1つずつ、焼灼していました。しかし、肺静脈の奥で焼灼すると、肺静脈が狭窄を来したり、また、焼灼により、心房細動が術中には治まっても、術後にすぐ再発したりと、諸問題が多く、手術の成功率も余り高く無かったのです。

そこで、肺静脈の付け根を、円周状に焼灼し、電気的に隔離する方法(肺静脈隔離法)が考案されました。当初は、4本ある肺静脈を、1本ずつ隔離する、個別肺静脈隔離法という方法が行われていましたが、、その後、左右2本の肺静脈を同時に隔離する広範囲肺静脈隔離法が、土浦協同病院の高橋淳先生(現横須賀共済病院)と家坂義人先生によって考案され、世界的な標準的治療方法となっています。

上大静脈隔離術

さて、この15%の肺静脈以外の心房細動起源をどの様に治療するのか。15%のうち7〜8%は上大静脈(上腕や頭部の静脈が心臓に戻ってくる時に通る血管)に存在する心房細動起源です。ここから出て来る心房細動は、肺静脈と同様、上大静脈を隔離することで治療可能です。上大静脈と右心房との電気的接合部位を焼灼することにより、上大静脈を隔離し、そこから出てくる心房細動起源を上大静脈内に閉じ込めて、心房細動を起こさないようにします。

上大静脈隔離の際に大きな問題になるのは、横隔膜麻痺です。横隔膜神経は、上大静脈の真横を上下に走行し、横隔膜(胸部と腹部をさかいする筋肉。この筋肉が上下することにより、胸郭が広がったり、しぼんだりしている)の動きを司っています。上大静脈を隔離する際に、この横隔膜神経を熱でやけどさせると、横隔膜の動きが低下、もしくは完全に麻痺します。しかし、横隔膜神経の近くを焼灼する際に、カテーテルの先端を前方、もしくは後方に向けることで、この合併症を起こさずに済むようになります。ちょっとしたコツですが、合併症予防にとても重要な技術です。

非肺静脈由来心房細動起源の治療方法

では、肺静脈、上大静脈以外の心房細動起源はどの様に治療するのか。これはもう、各個撃破しかありません。心房細動起源をポイントで探し当て、そこにカテーテルの先端を押し当てて焼灼します。心房細動カテーテルアブレーションの中で、知識、経験、技術が最も必要な治療で、長い経験を積んだベテラン医師でないと治療は困難です。

心臓内に留置するカテーテルの先端には電極がついており、そこから得られる心電図が外部のモニターに映し出されます。心電図データは、60本以上あります。その中で、心房細動が起きる瞬間に、最も早く興奮する電気信号をとらえるのです。

心臓の中の電気情報を集めるカテーテルは3?4本しか留置していません。すべての心筋の電気情報を観察できるわけではないので、記録された心電図の中で、最も早く興奮する電気信号をとらえても、すぐに起源が見つかるわけではありません。

そこで、ひとつひとつの心電図を見ながら、電気の流れを想像し、心房細動起源がありそうな場所を予測し、そこへカテーテルを移動させます。そして、発症している房細動に対して電気ショックをかけます。前に説明したイソプロテレノールが効いた状態だと、洞調律に復したあともすぐに心房細動が発症します。また、その瞬間に上記と同じ操作を行い、徐々に心房細動起源の場所を絞り込み、特定するのです。そのプロセスは、詰将棋に似ているといってもいいかも知れません。

心臓の解剖や、電気の流れ、マッピングカテーテルの位置などは、患者さんによって全く異なるので、心房細動起源を特定するための方法は、標準化、マニュアル化できません。個々の患者さんごとに、術者が先輩に教えてもらったり、自ら学んだりして習得していくしかないのです。ここが、術者の腕のみせどころであり、治療成績を大きく左右するといっていいでしょう。

肺静脈隔離しか行わなければ、60〜70%の患者さんしか、心房細動は治癒しません。さらに多くの患者さんの心房細動を根治させるには、この非肺静脈由来の心房細動起源を焼灼するしかないのです。

発作性心房細動の成績 薬物治療との比較



縦軸は治療開始1年後の洞調律維持率、横軸が8つの試験、青がカテーテルアブレーション、赤が薬物治療を表します。
参考文献 Tung R et al. Circulation 2012;126:223-229
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個々の患者さんにおいて、カテーテルアブレーションで発作性心房細動が治るか治らないかは、いくつかの因子に左右されます。それは1)心房細動がイソプロテレノールによって誘発されるか否か、2)誘発された心房細動起源を同定できるか否か、3)心房細動起源の数は一つか複数か、4)心房細動起源は心筋の浅いところにあるか、深いところにあるかなどです。これらの因子は患者さんごとに異なり、アブレーション前には予測不可能です。そのため、どの程度心房細動が治るかは、実際にアブレーションしてみないと分からないのです。しかし、100人の発作性心房細動患者さんに、同じような方法で治療を行ったら、100人中何人治ったという統計学的治療成績は算出可能です。以下に、その成績を述べます。

まず、カテーテルアブレーションと薬物の治療成績を比較したものを紹介します。現在までに、その大規模臨床試験は世界に8つ存在します(下グラフ)。ここでは、アブレーションを実施、もしくは薬剤を投与し、その後1年間、30秒以上の心房細動が出現しないことを成功と定義しています。各試験により結果は様々ですが、これらの結果の平均値をとると、発作性心房細動はカテーテルアブレーションにより80%の患者さんで治癒しており、薬剤では30%に留まっています。

発作性心房細動の長期成績



発作性心房細動患者さんに複数回カテーテルアブレーションを実施した後の経過
縦軸が洞調律維持率
横軸が最終アブレーション後からの期間(月)
参考文献Takigawa M, Takahashi A, Kuwahara T et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2014;7:267
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前記の成績は治療後1年間のみをみた結果ですが、それでは長期になるとどうでしょうか。

横須賀共済病院で、カテーテルアブレーションを行った発作性心房細動患者さん1220人の、その後5年間の再発率を調査しました。1年後に洞調律を維持している患者さんは72%でした。しかし3年後には65%、5年後には59%程度と、年数の経過とともに徐々に減っていきます。

一方、アブレーション後に心房細動が再発した患者さんには再度アブレーションを実施しています。アブレーションを2回以上受けた後では、1年後で約90%、5年後でも約80%の人で洞調律が維持できています。

まとめると、発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションの治療成功率は、1回の治療で1年後に70%、5年後に60%です。再発した患者さんは再度アブレーションを受けていただくことにより、最終アブレーションの1年後に90%、5年後に80%の人が、再発なく過ごせているということです。

持続性心房細動の成績

先にも述べましたが、持続性、慢性心房細動のメカニズムは2つ有ります。心房細動起源と心房細動基質です。

心房細動起源は、高用量イソプロテレノール負荷で探索し、焼灼することが可能です。しかし、心房細動基質に対する治療方法は、今のところ確立したものがありません

持続性、慢性心房細動に対しても、発作性心房細動同様、心房細動起源を一つ一つ探して焼灼する治療を行うと、持続期間が1年未満の持続性心房細動に対するアブレーションの治療成績は、1回の治療で1年後に洞調律が維持されていたのは80%、3年後では60%でした。再発した患者さんには再度アブレーションを行うことにより、洞調律が維持されるのは、最終アブレーションから1年後で90%、3年後で80%です。

ただし慢性心房細動の場合では、治療成績は悪くなります。持続期間が1〜30年(多くは10年以内)の慢性心房細動の場合、洞調律が維持されていた人は、1回の治療で1年後に60%、3年後では50%を切ってしまいます。しかし、それでも複数回治療を行うと、それぞれ80%、70%まで上昇します。

心房細動アブレーションの合併症とその対策

心房細動カテーテルアブレーションに起因する重大合併症は3つあります。それは脳梗塞心タンポナーデ、そして食道関連合併症です。世界レベルの調査によると、結果として死に至る重篤な合併症は0.1%、1000人に1人の割合で発症しています。

この治療方法を、安心して患者さんに受けてもらい、世の中に普及させるには、安全性の担保が必要であると確信しています。そのため、今まで、この合併症をゼロに近づけるために、ありとあらゆる工夫と努力をしてきました。

ここでは、カテーテルアブレーションにより起こりうる合併症とその対策についてご説明します。

脳梗塞

0.1%の頻度で、脳梗塞を合併します。アブレーション中は、体にとって異物であるカテーテルを、ある一定時間体内に留置せざるをえません。カテーテルには血栓がつきにくくなるような処置が施されていますが、それでも、付着することがあります。また、先に述べたように、高周波通電中に高温に達したアブレーションカテーテルの先端に、血液が凝固することもあります。

これらの術中に発症する血栓に対して、予防対策がとられています。

ワルファリンやDOACなどの抗凝固薬を継続したままアブレーションを実施することです。以前は、術中の出血性合併症の発症を危惧して、アブレーション前に抗凝固薬を中止していました。しかし、そのことにより、アブレーション中に、カテーテルに血栓が付着することがあったのです。

また、術直後も同じです。アブレーション直後には、電気ショックなどにより、心臓の動きが悪い状態が起こりえます。その間は、血栓が出来やすい。しかし、ワルファリンやDOACの抗凝固薬が、効いていれば、血栓予防につながるというわけです。

では、抗凝固薬が効いた状態で、出血性の合併症を引き起こしたらどうなるのか。薬が効いた状態では、中々、血が止まりません。

しかし、ワルファリンには中和剤があります。それを投与すると、ワルファリンの効果はたちどころになくなります。また、この中和薬は、DOACのリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンにも有効です。

ガイドライン上は、CHADSスコアが0の心房細動患者さんは、抗凝固薬を内服する必要がありません。しかし、そのような患者さんでも、心房細動アブレーションを実施する際には、手術に起因する脳梗塞を予防するために、術前に抗凝固薬を内服した方が良いのです。

心タンポナーデ

心タンポナーデとは、心臓に小さい穴があき血液が漏れ出てしまい、心臓の周囲に溜まり、心臓を圧迫してしまう合併症です。発生頻度は1%程度で、多くは、心臓の周囲に漏れた血液を抜き取ることで、出血は自然停止します。しかし、稀に、出血が止まらず、外科的に開いた穴を縫い合わせる手術が必要になることもあります。更に稀ですが、開いた穴が大きかったり、発症に気づくのが遅れたりすると、重篤な状態になり、死に至ることもあります。

心タンポナーデが起こってしまう要因は、大きく3つあります。1)心房中隔穿刺時に、中隔以外の心臓に針を刺し、穴が開いてしまう、2)カテーテル操作時に心筋を押しすぎて心筋が裂けてしまう、3)心筋を焼きすぎて穴があいてしまうことです。

しかし、上記の3つの要因も、技術開発により、ほぼ起こさずに済むようになりました。

心房中隔穿刺は心腔内エコー高周波穿刺針を用いることで、他の心筋を誤穿刺することはありません。

また、コンタクトフォースアブレーションカテーテルにより、カテーテルが心臓を押す力を数値化でき、押しすぎると、警告が出るように設定できます。

なお、多少専門的ですが、焼灼中の通電回路内のインピーダンスを測定することで、過度な焼灼が行われていないかも推測可能です。

テクノロジーの発展は、治療効果のみならず、安全性の向上にも寄与しています。しかし、このような最新のテクノロジーを使用しても、最終的にカテーテルを操作するのは、人間です。慎重な操作を心がけるのが重要です。

食道関連合併症

心臓の治療なのに、なぜ食道に合併症?と不思議に思われる人もいるかも知れません。実は食道は心臓のすぐ後ろに位置しており、アブレーションによる熱が伝わりやすいのです。軽度の食道炎を含めれば、心房細動アブレーションを実施した10〜20%の患者さんに食道障害を来します。

極めて稀ですが、大きい食道潰瘍が形成され、心臓との間に瘻(連絡路)ができてしまい、心房食道瘻という合併症を起こすことがあります。激しい胸の痛み、高熱、脳梗塞症状を呈します。これらの症状は、アブレーション後数週間で発症するので、患者さんも医師も、その症状がアブレーションに起因するものだと、思いつかず、診断が遅れる原因となります。心房細動アブレーションに伴う重症合併症の一つで、重篤化すると死亡する危険性が高いので、早期発見が重要です。そのような症状があれば、すぐに担当医に相談してください。医師は、この合併症を疑えば、胸部CTを実施します。診断されれば、多くの場合は、外科的治療が必要です。

また、胃蠕動(ぜんどう)障害という合併症もあります。食道の壁を走行している迷走神経を熱でやけどさせることで発症します。迷走神経は、胃などの消化管の動きを調整しており、その障害により、食事をすると、すぐにおなかが張ったような感じを自覚します。根本的な治療方法はなく、基本的には経過を見るしかありません。多くは数ヶ月から半年で症状は改善します。

これらの食道関連合併症を予防するために、大切なことは、アブレーションの際に、食道近くの心房を焼灼しないということです。そのため、手術時には、造影剤を飲んで頂き、食道の走行を確認します。

どうしても食道上の心房を焼灼しなければならない時は、食道の温度を測定しながら、焼灼します。食道温度の上昇は、食道の温熱障害を示唆しますので、すぐに焼灼を中止します。

このような予防対策をとることで、現在では、心房食道瘻や胃蠕動運動障害といった重症の合併症はほとんど起きていません。ただし、軽度の食道炎は起きています。多少の食道炎は致し方なく、完全に無くすことはできません。軽度の食道炎もなくそうとすると、アブレーションそのものができなくなります。これは必要悪だと考えています。たとえ、食道炎が発症したとしても、胃酸分泌を抑える薬で、多くは1周間以内に改善します。

全身麻酔 痛くないアブレーションを実施するために

アブレーション治療は施設によりやり方は様々です。例えば、麻酔。局所麻酔のみで行っている施設もあれば、全身麻酔まで行っている施設もあります。医師により、考え方は様々です。局所麻酔のメリットは「術中に患者さんの意識状態の変化や痛みをいち早くとらえ、合併症予防に役立てる」ということです。

しかし、心臓を焼灼すると、焼く場所によっては激しい痛みを自覚します。「アブレーション治療は痛い」私達が心房細動アブレーションを始めた頃に、良く患者さんから言われた苦情です。手術が終わって、最後に患者さんを覆っている手術カバーをはがすと、患者さんが全身汗でびっしょりということもありました。「寝ている間に手術は終わって欲しい」ほとんどの患者さんに言われます。

私は、アブレーション治療は全身麻酔で行ったほうが良いと思っています。その理由は「患者さんに痛みがなく、手術を楽に受けられる」、人工呼吸器により呼吸が安定し、「心臓の上下運動が少なく、カテーテルの固定が容易で、治療効果が高まり、合併症予防にもつながる」、「患者さんに「痛い、痛い」と言われず、術者のストレスが無い」、などです。

なお、静脈麻酔を注射するためには、それを体に入れるために点滴ルートが必要です。その点滴をする際には、どうしても体に針を刺さねばなりません。当たり前ですが、その際、痛みを自覚します。しかし、最近ではその痛みさえもとるようなものもあるのです。キシロカインテープ(商品名 ペンレス)というもので、針を刺す部位に30分間貼っておくと、針を刺しても痛みを自覚しません。

患者さんが喜んでくれるものを考えることは、医療に携わる者としては、とても重要なことです。「アブレーションを全身麻酔」で、「針を刺す時に痛みを感じないように」以前は考えられなかったようなことが現実のものとなっています。

全員への経食道心エコーは不要



胸部造影CT
左心耳の部分に造影剤がしっかりと流れ込んでいます。こういう場合は、心耳内に血栓は認められません。
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「あの検査を手術前にやるなら、アブレーションは受けたくない。」と多くの患者さんが訴える検査があります。それは、経食道心エコー検査です。心房細動患者さんには、左心房の左心耳というところに、血栓がついていることがあります。そのような状態で、アブレーションを実施すると、カテーテルでその血栓を飛ばしてしまい、手術中に脳梗塞を合併する可能性が高い。故に、予めそこに血栓があるかないか確認しておく必要があります。

左心耳といのは、心臓との間に何の障害物もない食道から観察すると、きれいに描出できます。しかし、その経食道心エコーは、エコーの先端にカメラがついていないために、食道に挿入する際に、患者さんの「嚥下運動」の協力が必要です。つまり、人差し指の太さほどの管を飲み込んでもらわなければならないのです。これが苦痛なのです。数%の患者さんはどうしても飲み込めなくて、検査自体がキャンセルになることもあります。

そこで「奥の手」があるのです。それは”胸部造影CT”(下図)です。造影剤を注射した後に、タイミングを見計らって胸部のCTを撮影します。造影剤がしっかりと左心耳に流入していれば、血栓はないと診断できます。反対に、左心耳に造影剤が流入せずに、欠損像があれば、血栓がついているか、もしくは左心耳への血液流入速度が遅いことが考えられます。経食道心エコー検査は、そのような患者さんに限定して実施すれば良いのです。実際に、そのような所見が得られるのは、全体の約1割です。その1割の4人に1人は、経食道心エコー検査で血栓が見つかります。

造影CTを実施しなければならないので、コスト、造影剤アレルギー、放射線被ばくの問題が生じます。しかし、そのぶん経食道心エコー検査の件数が全体として減少し、患者さんの嚥下の負担はなくなり、また造影CTで得られた画像はそのまま、アブレーションに利用できるというメリットが生まれます。それらすべてを考慮すると、有望な検査の一つと思われます。

尿道バルーンは不要

女性には余り関係のない話しです。男性は尿道が長いので、そこに管(バルーン)を挿入すると、たいていの方は痛みや強い違和感を自覚します。手術室に入ってくる時に、バルーンが入っていると、尿道の痛みのせいか、腰を後ろに引いて、前かがみになっています。

人は誰でもそうですが、昔から一般的に普通にやられているものは、正しいと思いがちです。アブレーション手術の際の、尿道バルーンもそうです。大昔から、検査も含めて、カテーテル室に入る患者さんには皆さん尿道バルーンを入れていたのです。

尿道バルーンを入れる理由は、点滴量の管理です。どの程度の点滴が体に入り、尿として出たのか。点滴の量が多く、尿量が少ないと、肺うっ血といって、余分な水が肺にたまり、呼吸困難を起こす可能性があります。

しかし、アブレーションはたかだか2〜3時間で終了します。点滴の量も多くありません。それほど厳重な点滴量の管理が必要か。100人の患者さんに、尿道バルーンを入れずにアブレーションを実施してみました。尿量が分からず、点滴の量が調整できず、肺うっ血になった人は皆無でした。

術後に止血が完了するまで安静で仰向けに寝ていなければなりません。その際は、尿意を催しても、排尿が困難な方がいます。そういう時だけ、極めて細い管を膀胱まで挿入して、排尿を介助します。その管は尿道よりも細いので、痛みは感じません。

現段階では、ほとんどの施設がアブレーション時には尿道バルーンを入れていると思いますが、近いうちに入れなくても、問題ないということが浸透して行くのではないかと願っています。

術後注意事項

アブレーションを実施すると、10%程度の患者さんですが、術後1ヶ月以内に心房細動が再発することがあります。その時期は、焼灼により心房がやけどをしている状態です。皮膚がやけどをすると、その部位が発赤し、水ぶくれができます。それと同じことが心房でも起きています。焼灼した部位は、腫れ上がり、熱を発します。そこから炎症性の物質を放出するので、アブレーション直後は37度代の微熱が出ます。また、その炎症性物質の刺激により、術後1ヶ月以内に心房細動が起きることがあるのです。手術前とは異なるメカニズムで心房細動が起きます。しかし、このやけどはしばらくすると、癒えてきますので、術後1ヶ月以降、これによる心房細動は自然に治まってきます

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