――物事の真実は、やはり動物にある――

① 階段は本当に「健康的」なのか
「健康のために階段を使いましょう」。
よく聞く言葉ですが、『3.18 食生活を考えるヒント』でお伝えしたように、物事の真実は動物にあります。
人間は二足歩行になったとはいえ、身体の設計思想の基盤は四つ足動物のままです。
本来得意なのは、平地や緩やかな勾配を一定のリズムで進む動きであり、上下動の大きい段差ではありません。
階段昇降では、膝や股関節を深く曲げ、瞬間的に大きな力を関節で受け止める必要があります。
確かに「運動した感じ」は得られますが、関節への負担は大きく、日常的な回数ではカロリー消費も限定的です。
関節を壊してしまえば、健康の土台である「歩くこと」自体が失われます。
階段=健康という単純な図式は、ひょっとしたら再考が必要では、と思っています。
心房細動の患者さんにおいても同様で、無理な運動よりも、長く続けられ、関節を守れる運動のほうが結果的に心臓にも良い影響をもたらします。
② わんちゃんの選択に、歩行の本質がある
ここで、動物の行動を思い出してください。
わんちゃんにスロープと階段を並べたら、多くの場合、迷わずスロープを選びます。
階段は、必要に迫られたときだけ使う例外的な動きです。これは理屈ではなく、本能的な選択です。
関節にやさしく、体幹を安定させ、後ろ脚という大きなエンジンを連続的に使えるからです。
物事の真実は動物にある――この視点で見ると、ウオーキングの価値がはっきりします。
人間にとっても、関節を守りながら心肺や代謝を刺激する方法は、階段よりも「歩くこと」です。
実際、心房細動の患者さんでは、日常的なウオーキング習慣が体重管理や血圧、睡眠の質の改善につながり、発作の頻度や症状の軽減に寄与することが知られています。
さらに、カテーテルアブレーション治療後の患者さんにおいても、ウオーキングは再発を防ぐための重要な生活習慣の一部です。
治療がうまくいっても、その後の生活が不健康であれば、心房細動は再び顔を出します。
わんちゃんの行動は、「無理なく、壊さず、続ける」ことの大切さを静かに教えてくれています。

③ ウオーキングを成立させる鍵は「おしり」と股関節
良いウオーキングの主役は、おしりの筋肉(殿筋)です。
殿筋は推進力を生み、膝や腰への負担を分散してくれます。
ただし、この筋肉は股関節が硬いと十分に働きません。
股関節の動きが小さいと、歩行は膝主導となり、関節トラブルの原因になります。
そこで重要になるのが、股関節の柔軟性です。
その手段としておすすめなのがヨガです。
ヨガは単なるストレッチではなく、股関節を大きく動かし、体幹と下肢をつなぐ準備運動でもあります。
こうした土台が整ってこそ、ウオーキングは心臓にも関節にもやさしい運動になります。
動物は、壊れない動きしかしません。階段を避け、スロープを選ぶわんちゃんの姿に、長く歩き続けるための真実があります。
無理に階段を昇るより、股関節を整え、気持ちよく歩く。
それが、心房細動のある方にとっても、アブレーション治療後の方にとっても、10年後も歩ける身体への最短ルートです。
筆者は家内といっしょに、YouTubeのB-flowを見ながら、毎晩ストレッチをしています。
【執筆】井上健司
東京ハートリズムクリニック新宿 院長
[専門領域]
・虚血性心疾患
・総合内科専門医・指導医
・日本循環器学会専門医
・心血管カテーテル治療認定医
心房細動の治療は、「アブレーションを受けたら終わり」ではありません。むしろその後、どんな生活を積み重ねるかが、10年後の心臓や身体を大きく左右します。
東京ハートリズムクリニック新宿では、カテーテルアブレーション治療だけでなく、再発予防を見据えた生活習慣や運動習慣についても一緒に考えています。
「何をしたらいいかわからない」「運動はどこまでしていいの?」という方も、ぜひお気軽にご相談ください。
“無理なく、壊さず、続ける”――それが、長く元気に歩き続けるための心臓医療だと考えています。

