心房細動と脳梗塞予防 ― 抗凝固薬をどう考えるか
心房細動の治療で最も重要なのは、症状の強さではなく脳梗塞予防です。
心房の動きが乱れることで血液がよどみ、血栓ができやすくなります。
その血栓が脳へ飛ぶと脳梗塞が起こります。
年齢や高血圧、糖尿病、心不全、脳梗塞の既往がある方では、そのリスクはさらに高まります。
その予防に用いるのが抗凝固薬です。
「出血が心配」という声は少なくありません。
もちろん出血リスクはゼロではありませんが、リスクを丁寧に評価し、適切な薬剤と用量を選べば、脳梗塞予防の利益が上回ることがほとんどです。

「転ばないように注意」だけでは不十分
抗凝固薬を始めると、「転ばないように気をつけましょう」と言われることがあります。
しかし私は、単に「注意しましょう」と言うだけでは不十分だと考えています。
転倒は不注意だけが原因ではありません。
年齢とともに衰えやすいのは、
- 太ももの筋力
- 足を前に運ぶ力
- つま先を持ち上げる力
これらが低下すると、わずかな段差につまずきます。
つまり、出血を心配するなら、注意力よりも筋力を整えることのほうが建設的なのです。
✓椅子からゆっくり立ち上がる運動
✓座ったまま膝を持ち上げる運動
✓つま先の上下運動
こうした日常の小さな習慣が、転倒予防につながります。
抗凝固薬を避けるのではなく、整える
出血リスクを下げるために大切なのは、
- 血圧をきちんと管理すること
- 身体機能を維持すること

抗凝固薬を避けることではありません。
心房細動と診断されたときに考えるべきなのは、「怖いからやめる」ではなく、どうすれば安全に使えるかです。
脳梗塞は一度起きると取り返しがつきません。
だからこそ、予防という視点を大切にしていただきたいと思います。
【執筆】井上健司
東京ハートリズムクリニック新宿 院長
[専門領域]
・虚血性心疾患
・総合内科専門医・指導医
・日本循環器学会専門医
・心血管カテーテル治療認定医
心房細動は「症状が軽いから大丈夫」という病気ではありません。
正しく評価し、適切に予防すれば、過度に恐れる必要もありません。
一人ひとりに合った治療を一緒に考えていきましょう。

