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2-1 心房細動の基礎知識

2-1 心房細動の基礎知識

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2-1-1 正常の心臓の働きと電気の流れ

心臓は筋肉が収縮と弛緩を繰り返し、血液を体全身に送り出す臓器です。正常の人ならば、その量は5〜6リットル/分です。

心臓は働きの上から上下二つの部屋に分かれており、上の部屋を心房、下の部屋を心室と呼びます。また、心房と心室も左右2つに分かれており、それぞれを右心房、左心房、右心室、左心室と呼んでいます。体全身に血液を送り出すのは、左心室の役割です。

心臓の作りと電気刺激の伝わり方の解説図

心臓の筋肉は、電気の刺激により興奮します。右心房の上の方には、心拍動の命令を出す洞結節という組織があり(下図)、安静時で、1分間に50~100回の電気刺激を規則正しく発生しています。この組織は、脳からの刺激がなくても、自ら一定のリズムで規則正しく興奮するようなシステムを備えています。環境が整えば、心臓だけが取り出されたとしても、この洞結節の刺激により心臓は拍動を続けます。

洞結節で発生した電気は、心房の中を広がり、房室結節(下図)に到達します。心房の中では電気は秒速0.5メートルで流れていきますが、房室結節では、極端に遅くなり、秒速0.05メートルまで低下します。ちなみに、この房室結節は、日本人の田原淳博士が、100年以上前に世界で初めてその構造を発表したものです。

心房と心室の電気的な連結は、一般にはこの房室結節のみです。房室結節を通過した電気は、心室の刺激伝導系という特殊な心筋に到達します。ここでは、電気は秒速5メートルという高速でかけぬけて、心臓の各所に伝わり、心臓は全体として、調和しながら収縮していきます。これが正常な脈拍の時の、心臓の中の電気の流れです。

2-1-2 心房細動とは


脈拍が完全に不規則
になってしまう不整脈です。治療が必要な不整脈の中で最も多く認められ、正常の脈拍(洞調律)に比較し、脳梗塞になってしまうリスクが高くなってしまいます。

下に、洞調律時と心房細動の心電図モニターを示します。洞調律時の、心房の興奮を示す波をP波、心室の興奮を示す波をQRS波といい、この2つはセットとなって規則正しい間隔で出現しています。このQRS波が出現する際に、血液が体全身に送りだされており、脈拍として感じます。

心房細動のモニターでは、P波と呼ばれる部分が消失し、細かく揺れています。これを細動波といいます。そして、QRS波の規則性は失われ、脈拍も完全に不規則となります。

心電図モニター資料画像

2-1-3 心房細動の分類

心房細動は出現様式により下記に分類されます。

発作性心房細動 心房細動は発作的に出現し、その発作は1週間以内に自然に治まるもの
持続性心房細動 出現した心房細動は自然に停止することなく、持続期間が1週間以上のもの
慢性心房細動 心房細動は常に持続しており、その持続期間が1年以上のもの

2-1-4 日本の心房細動人口は170万人


下のグラフは、2005年から2050年までの日本における心房細動患者数を表したものです。2003年に日本全国で実施された健康診断の結果より推定されたもので、解析対象者数が63万人と非常に多いので、かなり信頼性の高いものと思われます。このグラフから推定すると、2015年現在では、心房細動患者数はおよそ90万人です。ただし、この研究で拾い上げられた房細動とは、健康診断の際に心電図が心房細動を示していたもののみで、そのほとんどは、持続性、慢性心房細動であり、発作性心房細動は含まれていません。

京都市伏見区の79の医療施設は、同施設を受診した発作性、持続性、慢性心房細動患者を可能な限り全て登録し、心房細動患者の臨床背景や治療の実態調査、予後追跡を行う研究を実施しています。登録患者数は2011年3月〜2012年6月の間で3183名であり、心房細動患者の内訳は、発作性が46%、持続性が7.3%、慢性が46.7%でした。この割合を先の研究にあてはめると、現在の日本における発作性心房細動患者数は80万人と推定され、心房細動患者をすべて合わせると170万人です。この数は高齢化社会の影響もあり、2030年〜2040年までは増加し続けると予想されています。

日本における心房細動患者数の経年変化数グラフ

【執筆】桑原大志 医師・医学博士
東京ハートリズムクリニック院長
日本不整脈心電学会認定不整脈専門医