徐脈の危険性と主な症状
徐脈とは不整脈の一種であり、心臓の拍動頻度が極端に少ない場合のことを言います。
一般には心拍数が50回/分未満になる状態のことを徐脈という、と定義されています。(*1)
心臓は、1日に約10万回、収縮と拡張を繰り返しことで血液を全身へ送りだしています。
一般に、健康な成人の体では心臓の拍動は規則正しく行われていますが、何らかの原因により、この拍動が乱れることがあります。
これを「不整脈」といいます。
不整脈には心拍頻度が「速くなる」「遅くなる」「不規則になる」という3種類があり、それぞれ「頻脈」「徐脈」「期外収縮」といわれています。
徐脈は緊急性が高い頻脈に比べて致死的なケースは少ないとされますが、放置することで日常生活に支障が出たり、まれに命に関わる状態を招くこともあります。
徐脈の症状として、以下のものが挙げられます。
- 息切れ、呼吸困難
- だるさ
- 足のむくみ
- 胸痛
- 立ちくらみ
- めまい
- 失神
- 過度の疲労感
- 血圧低下 など

- 息切れ、呼吸困難
- だるさ
- 足のむくみ
- 胸痛
- 立ちくらみ
- めまい
- 失神
- 過度の疲労感
- 血圧低下 など

1分間に脈拍が40以下になり、40台や30台になると、徐脈による息切れや、めまいなどの症状が出やすくなるとされています。
一体なぜ、徐脈がこのような症状を引き起こすかというと、徐脈になるということは心臓の拍動が少なくなるということであり、そうなれば、全身へ送り届ける血液の量が少なくなるから。
そのため全身の細胞や組織は酸素や栄養素が不足し、めまいや息切れ、だるさなどの症状を引き起こすのです。
症状が軽ければそれほど心配はいりませんが、場合によっては事故や怪我にもつながります。
また、徐脈の程度によっては心臓の筋肉を動かす電気信号が完全にストップしてしまい、命の危険に至ることもあります。
そのため、何らかの自覚症状があればすぐに専門医を受診し、治療の是非を検討する必要があります。
ちなみに、プロのアスリートなどスポーツ選手には徐脈が多いことが知られています。
特に持久力が必要なスポーツを長く続けてきた人に徐脈が多く見られ、一般に「スポーツ心臓」と呼ばれています。
なぜ、スポーツ選手が徐脈になるかというと、競技で持久力を必要とすることにより、心室の内腔が拡大し、心筋が厚くなると筋肉が発達し、1回の拍動で血液をより多く送り出すことができるようになります。
そのため、少ない拍動でも全身に十分な血液を送ることができるようになり、心拍数が減少するのです。
かつては、スポーツ選手に見られる心臓の肥大が病的なものか意見がわかれていましたが、現在では研究が進み、スポーツ心臓は特に異常なものではなく、競技能力を高めるため、自然と身体が適応した結果であることが明らかになっています。(*2)
スポーツ心臓と病的な徐脈は外見上の心拍数は同じでも、背景が異なります。安静時の心電図や症状の有無をもとに、医師による鑑別が重要です。
(*1)一般社団法人 日本循環器学会
(*2)厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト

徐脈とは、脈が異常に遅くなる不整脈の一種で、息切れやめまい、失神を引き起こすこともあります。特に脈拍数が40回/分を下回ると症状が出やすく、治療が必要になる場合があります。スポーツ選手のように生理的な徐脈もありますが、気になる症状があれば早めに専門医にご相談ください。
徐脈を引き起こす代表的な疾患
徐脈の原因となる疾患にはさまざまなものがありますが、代表的なものは「洞不全症候群」と「房室ブロック」です。
そもそも人間の心臓が規則正しく拍動を続けるのは、「人体のペースメーカー」とも呼ばれる洞結節で電気信号が発生するためです。
心臓は右心房、右心室、左心房、左心室という4つの部屋で構成されており、洞結節が位置するのは右心房です。
洞結節は脳からの刺激がなくても、一定のリズムで規則正しく興奮するようなシステムを備えており、成人の場合安静時で1分間に50~100回の電気刺激を規則正しく発生しています。
これにより、心房がリズミカルに収縮を繰り返します。


さらに、電気刺激は心房内の心筋を通って房室結節へ伝わります。
心房と心室の電気的な連結は、この房室結節の1か所だけです。
心臓を拍動させるための興奮刺激の流れを刺激伝導系と呼びますが、房室結節を通過した電気は、心房室結節からヒス束(心臓内の刺激伝導系の一部)→左脚・右脚→プルキンエ線維(同じく刺激伝導系の一部)へと秒速5メートルという高速でかけぬけたのち、心室を収縮させます。


刺激伝導系があるために心房と寝室は順番に収縮し、心臓はポンプのように全身へ血液を送り出すことができるのです。
しかし何らかの原因で「洞結節」と「房室結節」に異常が見られることがあります。
前者を洞不全症候群、後者を房室ブロックといい、どちらも徐脈を引き起こす原因になります。
1.洞不全症候群
1.洞不全症候群
なんらかの原因により、電気信号を生み出す洞結節の細胞に異常が発生し、心筋を動かす電気信号を発生する回数が極端に少なくなったり、発生できなくなったりする状態のことを、洞不全症候群といいます。
洞結節に異常が発生する原因としては、主に以下のことが考えられます。
- 加齢
- 器質的心疾患(心筋症、虚血性心疾患、心筋症、心筋炎、リウマチ性心疾患など)
- 膠原病
- 睡眠時無呼吸症候群 (*3)
- 甲状腺機能低下症
このように、洞不全症候群にはさまざまな原因が考えられますが、90%以上の症例においては原因が特定できません。
その場合は特発生洞不全症候群と呼ばれ、主に加齢が原因となって発症すると考えられています。
研究により罹患率は年齢とともに上昇し、65歳以上では人口600人中一人の割合で見られることがわかっています。(*3)
洞不全症候群のリスクや、治療の必要性を見極めるには、Rubenstein分類という分類法が役立ちます。これによると洞不全症候群は以下の3つに分類されます。
I型 洞徐脈
心拍数が50回/分以下であり、脈が慢性的に遅い状態
II型 洞停止または洞房ブロック
洞結節からの刺激が突然休んだり、心房筋への伝導がブロックされたりした病態。正常な脈がときおり完全に停止する
III型 徐脈頻脈症候群
洞徐脈発作と心房細動などの頻脈性不整脈発作とが交互にみられる病態
基本的に、洞不全症候群は生命予後には影響を与えず、息切れやだるさなどが原因となり、QOLにのみ影響を与える疾患と考えられています。
そのため、症状がない限りは治療を行う必要はないと考えられています。(*4)
とはいえ、高齢になれば息切れやだるさなどは多くの人が感じる症状であり、今現れている症状が「年齢のせい」なのか、「洞不全症候群のせい」なのか、わからない人も多いと思います。
そのようなときには、先ほどのRubenstein分類によって、危険度を考えていきます。
特に注意したいのは、III型 徐脈頻脈症候群です。
心房細動などの頻脈性不整脈を発症すると、その頻脈が突然停止し、しばらくの間、次の心拍が開始されなくなる(=洞停止)ことがあります。そのため、めまいなどを引き起こし、洞停止の時間が長いとアダムストークス発作を起こすことがあります。
アダムストークス発作とは、心拍出量が急激に低下することにより脳血流が減少し、意識消失(失神)、痙攣などの一過性の脳虚血症状を引きおこした病態のことをいいます。(*5)


心臓の活動が正常に戻らなければ突然死する場合もある、危険な状態です。
心臓が小刻みに痙攣する心房細動と洞不全症候群の関係は深く、研究によれば、洞不全症候群の患者が新たに心房細動を発症する比率は、洞不全症候群でない人に比べて4.2倍高いとされ、また、洞不全症候群と診断された人のうち、40~70%に心房細動が認められるという報告もあります。(*6)
さらに、心房細動を発症すると洞結節の機能低下が指摘されるという報告もあり、このようなこのような病態が認められる時には速やかに治療を行うことが必要になります。(*6)
(*3)国立研究開発法人 国立循環器病研究センター
(*4)公益財団法人 日本心臓財団
(*5)日本救急医学会
(*6)週刊日本医事新報 4914号
2.房室ブロック
2.房室ブロック
房室ブロックとは、房室結節における連結が途絶え、心房と心室の間で電気信号がうまく伝わらなくなった状態のことをいいます。
房室結節は、心臓収縮の命令を伝達している組織であるため、この細胞に異常が生じることで房室ブロックが生じ、脈拍が極端に遅くなったり、心臓の収縮に極端に間隔があいたりします。
房室ブロックの原因としては洞不全症候群同様、加齢によるもののほか、急性心筋梗塞などの器質的心疾患、薬剤性、甲状腺機能の異常などが考えられます。
房室ブロックの重症度は、一般に次のように3段階に分類されます。
- 第1度房室ブロック
電気信号が伝わるスピードが遅くなった状態
- 第2度房室ブロック
心房の電気信号がときどき途切れる状態
- 第3度房室ブロック(完全房室ブロック)
心房で発生した電気信号がまったく心室に伝わらず、電気信号が完全に途切れてしまう状態
第1度房室ブロックの場合、通常、症状はありません。心拍数も減少しないので、特に心配はいりません。第2度になると、ときどき脈が飛ぶなどの症状を自覚する人もいますが、まったく症状がないケースもあります。通常、第1度と第2度の多くでは深刻な状態になることがほとんどないので、あまり心配しなくても問題ないとされています。
しかし、さらに症状が進んで第3度になると、心拍数が低下することで脳血流も低下し、めまいやふらつきが起きたり、場合によっては意識を消失することがあります。また、第2度の一部では、「高度房室ブロック」といって、まったく前兆がなく突然、何秒か電気信号が途切れ、危険な状態に陥ることがあります。そのため、房室ブロックの多くでは治療が不要とされますが、第2度の一部と第3度の一部は治療が必要と考えらえます。
3.その他の要因
3.その他の要因
そのほか、遺伝的な要因に環境要因が重なることで徐脈が生じる場合もあります。
たとえば、生まれつき洞結節の働きが弱い人もいますし、先天的に電気信号を伝える刺激伝導系に異常がある人もいます。
また、抗うつ薬や降圧薬の副作用として徐脈が生じることもあります。
これは、それらの薬に心臓における電気信号の発生や、自律神経に影響する成分が含まれているため。
また、抗不整脈薬が必要以上に心拍をゆっくりにし、徐脈の状態を引き起こしてしまう場合もあります。

徐脈は加齢や心筋梗塞などの心疾患、甲状腺機能低下症、さらには薬剤の副作用によっても起こります。特に高齢者では、刺激伝導系の老化や複数の薬剤使用が重なり、知らぬ間に進行することもあります。自覚症状がある場合や、脈拍が著しく低いと感じた際は、早めの受診が勧められます。
徐脈になりやすい人と徐脈を起こす薬
徐脈の原因から考えると、「徐脈になりやすい人」として、以下のような特徴を挙げることができます。
1.加齢が進んでいる人
1.加齢が進んでいる人
一般に成人の心拍数は 50〜100/分とされていますが、高齢者の場合はこれより少なくなりがちです。
なぜかというと、洞結節で生じた電気信号が伝わる回路(刺激伝導系)や、その周辺組織が衰え、線維化が進んで電気信号の伝導障害が生じるため。
また、加齢に伴って動脈硬化や心筋梗塞などの虚血性心疾患、高血圧性心疾患などを合併する比率も高くなり、こうしたことも徐脈の増加につながっていると考えられます。
さらに高齢者の場合、薬剤の影響によって徐脈が増えていることも指摘されています。
たとえば心不全や心房細動の治療薬として長年用いられてきたものにジギタリスという薬剤があります。(*7)
特に高齢者ではジギタリスを長年使用した結果、いわゆる「ジギタリス中毒」に陥っていることが多いのですが、ジギタリスの副作用として徐脈を引き起こすことがあるため、現在ではジギタリスの使用頻度は以前に比べて減少しています。(*8)
1.動脈硬化が進行している人
1.動脈硬化が進行している人
動脈硬化とは、動脈の血管が固くなって弾力性が失われた状態のことをいいます。


そしてこの動脈硬化が起きると血管の内径が狭くなり、血流が悪くなります。
この状態を狭心症といい、さらに、血管の内壁に脂質のコブ(プラーク)が作られて破裂すると、そこに急速に血栓が作られ、血流が閉ざされてしまいます。
これを心筋梗塞といいます。
心筋梗塞が発生すると、洞結節内や房室結節内、それから心室内で電気信号の伝導異常が起こります。その結果、徐脈が引き起こされるのです。研究により、徐脈性不整脈の原因のうち、約40%が心筋梗塞や狭心症など虚血性心疾患に由来することがわかっています。(*9)
(*7)日農医誌 65巻2号
(*8)公益財団法人 日本心臓財団
(*9)心臓 VoL32 No.9 (2000)
2.甲状腺の疾患がある人
2.甲状腺の疾患がある人
甲状腺とは、首の前面にある喉仏のすぐ下にある臓器で、新陳代謝を促進するためのホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌する働きを担っています。


この甲状腺に疾患がある場合も不整脈を引き起こし、特に、甲状腺の機能が異常に低下した状態(甲状腺機能低下症)は、徐脈の要因となります。
なぜ、甲状腺機能低下症が徐脈の原因になるのかというと、甲状腺ホルモンは心臓の収縮に大きく関与しているため。
甲状腺ホルモンには、心筋細胞を直接的または間接的に刺激して収縮を促したりする働きがあります。
そのため、甲状腺の機能が低下して甲状腺ホルモンの分泌量が減少してしまうと心筋の収縮が正常に行われなくなり、徐脈を招いてしまうのです。また高齢者では潜在性甲状腺機能低下症が少なくないため、徐脈の背景として甲状腺検査が有用です。ちなみに、甲状腺の機能が過剰に高まった状態を甲状腺機能亢進症(バセドウ病)といいますが、この場合には心拍数が増え、頻脈の状態になります。(*10)
(*10)岐阜市医師会
3.その他
3.その他
そのほか、先述したように降圧薬や抗うつ薬を服用している場合、徐脈のリスクが高まることがあります。
また頻脈などの治療のため、日頃抗不整脈薬を服用している場合、薬剤が効き過ぎたことが原因で徐脈になるケースもあります。
医療機関で行われる徐脈の検査方法を解説
徐脈が疑われる場合には、主に以下の検査を行います。
- 心電図検査
- 胸部レントゲン写真
- 心臓超音波検査(心エコー検査)
- 心臓CT/心臓MRI
- 血液検査
- 心臓電気生理検査(EPS)
心拍数やリズムの異常を迅速に評価できるため、最初に行う検査として心電図が用いられます。
通常、健康診断などで行われる心電図検査は「12誘導心電図検査」と呼ばれるもので、これは、胸部6か所のほか両手首、両足首に合計10個の電極を付けて、心臓の電気的な活動・変化を記録する検査です。
患者はベッドに横たわり、その状態で手足を胸に電極をつけ、器械が波形を出力して記録します。
そしてその波形を医師や検査技師が確認し、心臓に異常がないかチェックするのです。


簡単に行うことができ、また検査時間も短いうえ、不整脈だけでなく、心肥大や心筋梗塞のような心臓の異常を診断したり、電解質異常など全身状態を把握したりすることも可能であるため、現在では最もポピュラーな心電図検査として採用されています。
しかし、「12誘導心電図検査」で心電図を記録する時間はわずかに30秒程度であり、そのときに不整脈がたまたま発生しなければ、異常をキャッチすることはできません。
そのため、「実際息切れやふらつきなどの症状が出ているにも関わらず、心電図検査では何も異常が見つからなかった」ということも少なくありません。
そのような場合には、24時間かけて不整脈の有無を調べる「24時間ホルター心電図検査」を行います。
これは携帯用の小型心電計を使って24時間、心電図を記録するもので、普段の日常生活で心電図がどのように変化するか、また、動悸やめまいなどの諸症状があったとき、心電図がどのように変化するかを調べることが可能です。
基本的に、胸に心電図の電極シールを貼り、心電図記録器を腰に取りつけて測定します。
そのほか、必要に応じて胸部レントゲンや、心臓超音波検査(心エコー検査)、心臓CT/MRI、血液検査などを行うことがあります。
特に血液検査は貧血、内分泌疾患などを診断することができるため有効です。(*11)
また、場合によっては心臓電気生理検査(EPS)という検査を行うこともあります。
これは、先端に電極がついた細い管を足の付け根や鎖骨下の静脈から心臓に向かって数本挿入し、心臓内壁に接触させることで心臓内の電気活動を詳細に調べる検査。
体表面に電極をはりつける「12誘導心電図検査」や「24時間ホルター心電図検査」とは違って、心臓内の電気活動を詳細に調べることができ、不整脈のメカニズムも明らかにすることができます。
徐脈の検査においては、洞機能を評価したり、ブロック部位を診断したりするほか、治療法を決定する際の判断基準として重要な役割を果たしています。
(*11)千葉県医師会

徐脈の診断では、心電図による波形の記録が基本となりますが、一過性の徐脈は通常の心電図では捉えにくく、ホルター心電図や心電気生理検査(EPS)が必要となる場合もあります。特に高齢者や失神を伴う場合には、原因の精査と治療方針の決定に直結するため、専門医による的確な評価が重要です。
徐脈治療の必要性と、主に2種類の治療法
徐脈は頻脈と違って命に関わることがほとんどないため、特別な自覚症状がなく、一時的に脈が遅くなるだけなら心配いりません。
しかし、虚血性心疾患などの心疾患や甲状腺機能低下症など、なんらかの疾患に伴って発生している徐脈は、めまいや息切れ、失神などの症状を伴うことがあり、また、徐脈の状態が長期間継続すると、心臓の機能が徐々に低下して心不全の状態になることもあります。
心不全が慢性化すると死に至ることもあるため、健康診断などで徐脈と診断された場合には、念のため、循環器の専門医を受診することをおすすめします。
徐脈と診断されても日常生活に支障がない場合には、多くの場合、経過観察ですみます。
しかし日常生活に支障が及んでいたり、徐脈の発生が頻回だったり、徐脈の程度が重症であったりする場合には治療が必要になります。
治療が必要と診断された場合には、以下の2つから選択します。
- ペースメーカー
- 薬物療法
一般に、徐脈の治療として行われるのはペースメーカーの植え込みです。
ペースメーカーとは心臓の動きを継続的にモニターし、脈拍が遅くなっていることを検出したらごく弱い電気刺激を送って正常な脈拍に戻す、という役割を担う医療機器のことをいいます。重さ20g前後の小さな金属製の医療機器で、電気回路と電池が内蔵されています。
通常、洞不全症候群や房室ブロックなどの不整脈により心臓のスピードが遅くなり、息切れ、めまい、眼前暗黒感、意識消失などの症状がある場合は、ペースメーカーが適応となります。(*12)
ペースメーカーは左または右前胸部を4〜5cm切開し、皮膚の下に植込みます。通常、利き腕の反対側の鎖骨の下を4~5cm切開し、皮膚と筋肉の間に本体を埋め込みます。
成長期の子どもや、何らかの原因により胸部に配置することができない場合には、ペースメーカー本体を腹部に埋め込むこともあります。


さらに本体のほか1〜2本のリードを植え込み、それをペースメーカーの本体と接続することで、リードを通して心臓の中の電気信号がペースメーカーに伝達され、心臓のスピードが遅くなったり止まったりした場合、ペースメーカーの電気刺激が心臓に伝えられるという仕組みです。(*12)
これにより、失神による大けがや事故を防いだり、突然死を予防したりする効果が期待でき、「息切れやだるさなどの症状が強く日常生活に支障をきたす」「脈が遅く、失神やふらつきなどの症状がある」「症状はないが、4秒以上の心停止が見つかった」「重度の房室ブロックがある」といった場合には、ペースメーカーの使用が推奨されます。


このように、徐脈の治療ではペースメーカーの植え込みが行われ、「徐脈には薬物療法は適さない」という考えが一般的でしたが、近年では「洞不全症候群にはシロスタゾールという薬物が有効」という考えが確立されています。
もともとシロスタゾールは脳梗塞の患者に対して処方され、血液をサラサラにする効果があるとされてきましたが、以前から、この薬を服用すると心拍が速くなることがわかっていました。
そこでこれを応用し、近年では洞不全症候群にシロスタゾールを投薬し、症状の改善を期待することもあります。
(*12)日本不整脈外科研究会
1.ペースメーカーの寿命と治療を受ける上での注意点
1.ペースメーカーの寿命と治療を受ける上での注意点
ペースメーカーは電子機器であり、術後は定期的な点検が必要です。
少なくとも半年に1回程度は医療機関を受診し、正常にペースメーカーが働いているか確認しましょう。
また、年数とともにペースメーカーの電池が消耗するため、植え込んでから7〜8年経過したら再手術を受けて、本体を新しいものと交換します。
そのほか、ペースメーカーは他の電子機器の影響を受けやすいため、日常生活においては「スマホや携帯電話はペースメーカーの本体から15cm以上離して使う」「IH調理器、IH炊飯器を使うときはペースメーカーを接近させない」「マッサージチェア、電気風呂、体脂肪計は強い電磁波を発生するため、使用できない」などに気をつける必要があります。
また、MRIやCT、放射線治療装置などの医療機器も使用が制限されています。

徐脈の治療は、症状の有無と重症度に応じて判断され、主にペースメーカー植え込みが選択されます。近年は一部の軽症例で薬物療法(例:シロスタゾール)も用いられるようになりました。日常生活への影響が強い場合や失神を伴う場合は早期対応が重要であり、循環器専門医による適切な評価と治療選択が求められます。
まとめ
頻脈に比べて命のリスクが少ないとはいえ、徐脈が慢性的に起きるとやがて心不全に至る可能性もあります。健康診断の心電図などで徐脈と指摘された場合には、念のため専門医を受診して治療の必要性や危険度などを確認しましょう。

徐脈は脈が遅くなる不整脈で、軽度で無症状なら経過観察で済むことも多いですが、めまいや失神を伴う場合には注意が必要です。高齢者や基礎疾患のある方では、心不全や突然死のリスクもあるため、専門的評価が重要です。重症例にはペースメーカー治療が効果的で、近年では一部に薬物療法の選択肢も広がっています。
不整脈で気になることがあれば、お気軽にご相談を

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当院では、まずお話をしっかりうかがった上で、必要に応じて検査を行い、丁寧に対応させていただきます。
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