心房細動の治療、第一選択は薬物療法
心房細動が発症すると、心房で異常な電気信号が発生することにより、心拍が速くなったり、不規則になったりします。
放置すると脳梗塞や心不全など、重大な疾患に至ることもあるため、適切な治療が必要になります。


心房細動に対して行われる治療の第一選択は、薬物療法です。
心房細動には、「発作が数日で治る発作性心房細動」や、「数週間発作が続く持続性心房細動」「さらに長期に渡って発作が続く慢性心房細動」など、発作の期間によってさまざまに分類されますが、発作のタイプによって治療法が異なります。(*1)
まず、発作性心房細動に対しては、多くの場合まず薬物療法から開始されますが、効果が不十分な場合にはカテーテルアブレーション治療も検討されます。最近では、発作性心房細動に対してカテーテルアブレーションを初期治療として選択することも、一定の条件下では推奨されるようになってきています。
また、なかには治療抵抗性心房細動も存在します。
日本循環器学会のガイドラインでは、日本の平均 14 年にわたる長期観察データを見ると、発作性心房細動をおもに I 群抗不整脈薬で治療した場合、1年あたり平均 5.5% は治療抵抗性を示し、持続性心房細動に移行したという研究結果も示されています。(*2)
このような場合には薬物療法を中断してカテーテルアブレーションを行いますが、通常は薬物療法から始めるのが一般的です。
(*1)公益財団法人 日本心臓財団
(*2) 2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン

心房細動の薬物療法は、症状の緩和や重篤な合併症の予防を目的に行われる重要な治療手段です。心拍数を整える薬やリズムを維持する薬、血栓を防ぐ抗凝固薬など、治療の目的に応じて使い分けられます。個々の病状やライフスタイルに合わせた治療選択が必要であり、薬物療法はその第一歩として位置づけられます。
動悸や息切れなど、気になる症状がある方は、どうかそのままにせずお気軽にご相談ください。
心房細動に対する薬物療法は、大きく分けて3種類
薬物療法は大きくわけて「抗凝固療法」「レートコントロール」「リズムコントロール」の3つがあります。
それぞれについて、解説します。
1.抗凝固療法
1.抗凝固療法
心房細動になると心臓内の血流が滞り、血液の塊である血栓ができやすくなります。
これが脳動脈に詰まると脳梗塞を発症します。


このように、心臓で作られた血栓が脳へ塞栓として運ばれ、脳梗塞を引き起こすことを「心原性脳梗塞」といい、脳梗塞の15~20%がこの心原性脳梗塞といわれています。(*3)
他のタイプの脳梗塞に比較して重篤になることが多く、壊死する脳の範囲によっては、強い麻痺が残り、場合によっては亡くなることもあるので注意が必要です。
そのため、心房細動と診断されたらまず、血液の凝固を防ぐ抗凝固薬の投与が検討されます。
検討に当たっては、脳梗塞のリスクをはかる「CHADS2(チャズ)スコア」という指針が用いられます(下表)。
CHADS2(チャズ)スコアとは、心房細動患者における脳梗塞発症リスクの評価スコアのこと。(*4)
脳梗塞発症に関連する 5つの危険因子の頭文字を並べたもので、その因子とは以下の通りです。
Congestive heart failure 心不全
Hypertension 高血圧症
Age 年齢75歳以上
Diabetes mellitus 糖尿病
Stroke/TIA 脳梗塞/一過性脳虚血発作
これらは脳梗塞の発生率を上昇させる原因となり、これらの因子が積み重なると、さらに脳梗塞を引き起こしやすくなることがわかっています。
特に脳梗塞/一過性脳虚血発作を一度起こしたことがある人は、他の因子の脳梗塞年間発症率が5〜8%/年であるのに対して、12%/年にもなることがわかっています。(*5)
このCHADS2(チャズ)スコアは、高血圧や糖尿病の有無など、脳梗塞の発症リスクに関わる項目が点数化されており、該当する項目の点数を加算してスコアを求めます。
スコアが大きくなるほど、脳梗塞発症リスクは高くなり、スコアが1点以上であれば、抗凝固薬投与を考慮することになります。
うっ血性心不全: 1
高血圧 :1
75歳以上: 1
糖尿病 :1
脳梗塞の既往: 2
ただし、使用される薬剤はスコア1とスコア2以上で異なります。
スコア1には、DOAC(Direct oral anticoagulant)、スコア2以上には、ワルファリンかDOACを使用します。
DOACとは、心房細動の脳梗塞予防を目的とした経口抗凝固薬のこと。
従来、経口抗凝固薬と言えば、ビタミンK拮抗薬であるワルファリンを用いるのが一般的でした。
しかし、2011年にDOACの1つであるダビガトランが発売されて以降、現在日本ではリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンという4種類のDOACが使用されています。
ワルファリンは安価で、長年用いられてきたことから評価が確立しているというメリットがありました。
また、1日1回の内服で良いことや、モニタリング法が確立していること、それから、血液の凝固機能を回復させたいときなど万が一のときには中和薬を使えることなどのメリットもありました。
しかしその一方、薬物相互作用が多い、食事の影響を受けやすい、頻回に採血が必要、必要投与量に個人差がある、副作用がある、効果が現れるまで時間がかかる、などのデメリットがありました。
その点、ワルファリンと比較してDOACにはさまざまなメリットがあります。
副作用や薬物相互作用も少なく、頻回の採血も不要であり、効果はワルファリンと同等以上。
そのため現在ではワルファリンよりもDOACを使用する傾向が強くなり、欧米のガイドラインにおいても、新しく治療を開始する際の第一選択としてはDOACを推奨する意見が多く見られます。(*6)
ただし、人工弁置換術後(機械弁)やリウマチ性僧帽弁狭窄症などの弁膜症性心房細動については、現時点ではDOACの適応はなく、ワルファリンのみが推奨されています。(*6)
また、重度の腎機能障害を認める患者に対しては、DOACは禁忌となるため、選択には注意が必要です。(*6)


(*3)e-ヘルスネット
(*4)ベーリンガープラス
(*5)公益財団法人 日本心臓財団
(*6) 2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン
2.レートコントロール(心拍数調節療法)
2.レートコントロール(心拍数調節療法)
心拍数を適切な数に調整する治療をレートコントロール(心拍数調節療法)といいます。治療では、β遮断薬をはじめとした薬が使用され、これにより動悸感が軽減して楽になります。(*7)
レートコントロールで使用される薬物には、主に、β遮断薬、ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬があります。
β遮断薬
交感神経を抑制する効果を持ち、過剰になった心臓の働きを抑え、心臓の機能を保護することをめざす治療薬のことをいいます。
交感神経が過剰に働くと、ノルアドレナリンの放出が盛んになります。心筋に分布しているβ受容体に神経伝達物質であるノルアドレナリンが結合すると、心拍出量が増加して血圧が上昇します。
つまりβ遮断薬は、このβ受容体を遮断することで交感神経による刺激が心筋に伝わるのを抑制するのです。
ジギタリス製剤
ジギタリスは、心筋細胞のカルシウム濃度をあげて収縮力を増加させる、強心薬としての作用があります。また、迷走神経や房室結節へ作用して心拍数を減少させる作用もあります。
従来、心不全の治療や心房細動のレートコントロールのために用いられてきましたが、研究によりジギタリスには予後改善効果が認められないということが明らかになり、現在ではβ遮断薬を選択することのほうが多くなっています。ただし、場合によってはジギタリスを使用することもあります。(*7)
β遮断薬には心筋の保護効果、生命予後の改善、心臓突然死の予防などの効果が期待できます。(*8)
カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬とは、血管の筋肉に対するカルシウムの働きを抑えることで、血管を拡張させ、血圧を下げる薬のことをいいます。降圧剤のほか、抗不整脈剤、抗狭心症薬としても用いられます。
カルシウム拮抗薬にはさまざまな作用機序の薬がありますが、心房細動の治療に用いられるのは、ベンゾジアゼピン系のジルチアゼムと、フェニルアルキルアミン系のベラパミルです。(*8)
β遮断薬使用が理想的だが、実臨床では高齢者や心機能保たれている人にジルチアゼムが使用されており、「β遮断薬を使えない人への選択肢として活躍しております。(*9)
レートコントロールを行う上で重要なのは、「どのくらいの心拍数が適切か?」ということです。
まず認識したいのは、心拍数と脈拍数は一致しないということです。
心拍数が速くて不規則になれば、心拍によっては心臓が収縮して拍出される血液の量が少なく、脈拍を形成するに至らないものも存在します。
この状態を空打ちといいます。
そのため、心房細動の患者さんが自分の脈拍数を数えても心拍数は不明であることが多く、心拍数は、聴診器で心臓の拍動を聞くか、心電図を取らないと分からないのです。


ただし、洞調律(洞結節で発生した電気的興奮が正しく心臓全体に伝わり、心臓が正常なリズムを示している状態)の人は、心拍数と脈拍数は一致します。(*10)
かつて、心房細動患者の目標心拍数は「安静時に90拍/分以下」といわれてきました。
心臓は体が必要とする血液の量が増したとき、心拍数を上昇させることでそれに応えようとします。
しかし実際には、心拍数が90拍/分になるまでは心拍出量は増加しますが、それ以上になると逆に減少します。
そのため、不要な労力を避けるために、「心房細動患者の心拍数は安静時で90拍/分以下とするのがよい」と考えられていたのです。
最近まで、日本循環器学会のガイドラインにもそのように記載されていました。
しかし、この心拍数は臨床試験に基づいて、導き出されたものではありません。
そこで約600人の患者さんに対し、臨床試験が行われました。
「安静時の心拍数が80拍/分以下にする厳格調整群」と「110拍/分以下にする寛大調整群」の2群に分けて、3年間の死亡率、症状増悪による入院頻度、脳梗塞発症率などを比較したのです。
その結果、それらのイベント発症率は両群間で有意差は認められませんでした。
つまり、「90拍/分以下まで下げる必要はない」ということです。
寛大調整群は心拍数調整のための薬剤が少なくて済むので、現在では目標心拍数は110拍/分以下で十分と考えられています。


(*7)公益財団法人 日本心臓財団
(*8)心房細動の薬物によるレートコントロール療法
(*9)日内会誌 108:234〜241,2019
(*10)公益財団法人 日本心臓財団
3.リズムコントロール(洞調律維持療法)
3.リズムコントロール(洞調律維持療法)
リズムコントロールとは、心房細動そのものを起こらないように、または、起きてもすぐに治るようにする治療方法のことをいいます。
これには抗不整脈薬と呼ばれる薬が使われます。
この治療は一般的に、心房細動による動悸症状を自覚する患者さんに対して行われます。


心筋が興奮する際には、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオンという3つのイオンが、細胞膜に空いている穴(チャンネル)を移動しています。つまり、これらのイオンの出し入れがないと心筋は興奮できないのです。
これに目をつけたのが抗不整脈薬です。
すなわち抗不整脈薬は、これらの3つのイオンのどれかが、もしくは複数が、チャンネルを通りにくくすることで、心筋の興奮を抑制するのです。
不整脈が起きる時は、心房細動起源が興奮したり、電気が心房の中をグルグルと旋回したりしています。
この時、心筋は次から次へと興奮しながら、電気刺激を伝えています。
抗不整脈薬はこの興奮を抑えることで、心房細動起源の発症や電気刺激の旋回が起こらないようにしているのです。
抗不整脈薬を服用すると、心筋の興奮が抑制されるので、一般的に心臓の収縮力は弱まります。場合によっては洞結節の機能も低下させてしまい、洞不全症候群を引き起こすことがあります。
一方で、抗不整脈薬には他の薬剤に見られない“催不整脈作用”(*11)と呼ばれる重篤な副作用があり、慎重な使用が求められます。
催不整脈作用が重篤な場合は、死に至るような副作用が認められます。
そのため抗不整脈薬は、「自覚症状の強い発作性心房細動」か、または、「比較的持続期間の短い持続性心房細動」に対して投与されるのが一般的です。
発作が続く期間の長い持続性心房細動や、1年以上、心房細動が継続しているような慢性心房細動になってしまうと、抗不整脈薬を投与しても、電気ショックでも追加しない限り、薬だけで心房細動が停止することは、ほとんど期待できないからです。
抗不整脈薬にはさまざまな種類がありますが、その分類は、1975年に発表されたヴォーン・ウイリアムズ分類が一般的です。
これは「1つの薬物のメインターゲットは1つのチャネルあるいは受容体である」と考え、抗不整脈効果をもたらす主作用の種類により、Ⅰ~Ⅳの4群に分けるという方法で、具体的には次のように分類されます。
クラス | 主な作用機序 | 主な薬剤例 | 特徴・適応 |
Ⅰ群 (Naチャネル遮断薬) | 心筋のNaチャネル遮断により活動電位の立ち上がり(0相)を抑制 | プロカインアミド、リドカイン、フレカイニドなど | さらにIa, Ib, Icに細分類される |
Ⅰa | Naチャネル遮断 + Kチャネル遮断(活動電位延長) | キニジン、プロカインアミド、ジソピラミド | 心房・心室性不整脈 |
Ⅰb | Naチャネル遮断(活動電位短縮) | リドカイン、メキシレチン | 心室性不整脈に有効 |
Ⅰc | 強力なNaチャネル遮断(活動電位ほぼ不変) | フレカイニド、ピルシカイニド | 上室・心室性不整脈(構造的心疾患では禁忌) |
Ⅱ群 (β遮断薬) | β受容体遮断により交感神経刺激を抑制 | プロプラノロール、ビソプロロール、カルベジロールなど | 心拍数制御、心房細動の頻拍抑制 |
Ⅲ群 (Kチャネル遮断薬) | 活動電位の再分極を遅延(QT延長) | アミオダロン、ソタロール、ニフェカラントなど | 心房細動、心室頻拍など |
Ⅳ群 (Caチャネル遮断薬) | L型Caチャネル遮断により洞結節・房室結節の伝導抑制 | ベラパミル、ジルチアゼム | 発作性上室性頻拍、心房細動の頻拍抑制 |
抗不整脈薬のとんぷく療法
心房細動の発作頻度は、人により大きく差があります。
発作が頻繁に起こる人は、ほぼ毎日のように起きますが、少ない場合は1年に1回程度ということもあります。
この場合、わずか年1回程度の発作のために、それを予防する薬剤を毎日内服するのは効率的ではありません。
また先述したように、抗不整脈薬には副作用がありますし、長期間内服することで、副作用出現の可能性は高くなります。
そこで発作の頻度が低く、発作の時間も比較的短い人に対しては、継続的な薬の内服ではなく、抗不整脈薬をとんぷくとして用いることがあります。
つまり、「発作が起こったときだけ、それを抑えるために薬を服用する」という方法です。ちなみに英語では「pill in the pocket」といいます。直訳すると「丸薬をポケットに」となります。
とんぷくにはおもに、下表に挙げた抗不整脈薬を使います。
ただしいずれも、継続的な服用の場合よりも、1回に内服する量が多くなります。発作が起こったときにそれを止めるためには、血中の薬の濃度を有効濃度(心房細動を止める効果を発揮する濃度)まで一気に上昇させなければなりません。
そのためには、通常服用する際に比べ、2〜3倍の量を一度に内服する必要があるのです。
この方法を用いれば、点滴を受けたのとほぼ同じ程度に、薬物血中濃度が上昇します。
ところが、医師または患者さんが通常の2〜3倍の薬剤量を使用することに不安を感じ、通常の一回量しか処方、もしくは内服しない場合があります。
量を減らしたのでは、とんぷくとして発作を止める効果は期待できません。ときおり、「少量でも発作が止まった」と話す患者さんもいますが、その場合はもともと、短時間でおさまる発作だったと考える方が妥当です。
なお、とんぷくで効果が見られるからといって、心房細動の病態が進行していることに目を向けないのは危険です。
何年も抗不整脈薬をとんぷくしていると、やがて効かなくなります。これは薬の耐性が出現したからというよりは、心房細動そのものの病態が進行し、とんぷくでは治まらなくなってきたことによるものが大半です。
とんぷく療法を行っている最中でも、定期的に医師の診察を受け、病態が進行していないか確認し、必要があれば適切な治療を開始するようにしましょう。
薬品名(一般名)(商品名) | 1回頓用投与量 | 最高血中濃度到達時間 |
ピルシカイニド(サンリズム) | 100mg | 1~2時間 |
フレカイニド(タンボコール) | 100mg | 2~3時間 |
プロパフェノン(プロノン) | 100mg | 1.8時間 |
シベンゾリン(シベノール) | 100mg | 1.5時間 |
心房細動に対する薬物治療としては、まず検討されるのは「抗凝固療法」です。
その次のステップとして、以前は次項で述べる「リズムコントロール(洞調律維持療法)」と、「レートコントロール(心拍数調節療法)が同列で推奨されていましたが、近年では心拍数調節療法のほうが洞調律維持療法よりも優先順位が高くなっています。
(*11) 日病薬誌 第43巻11号(1504-1507) 2007年

心房細動の薬物療法は、血栓を防ぐ「抗凝固療法」、脈拍を整える「レートコントロール」、不整脈の発生自体を抑える「リズムコントロール」の3つに分かれます。患者さんの病状や症状、生活スタイルに応じて最適な薬が選ばれます。安全性を保ちつつ、継続的な見直しと医師の管理のもとで行うことが重要です。
リズムコントロールとレートコントロールを比較した「AFFIRM試験」
心房細動の第一選択薬は、もちろん脳塞栓症を防ぐ抗凝固療法です。続いて行う第二選択薬は、 かつては、抗不整脈薬や電気ショックを使用し、洞調律に戻す「リズムコントロール治療」が主流でした。(*12)
しかし2000年頃の研究により、その治療が必ずしも患者さんの生命予後を改善させるわけではないことが分かってきました。
先述のように、現在心房細動に対する治療の第一選択薬は、脳塞栓症の合併を回避する抗凝固療法です。
その次の第二選択薬として、以前はリズムコントロール療法とレートコントロール 療法が並列して挙げられていましたが近年では、レートコントロール療法のほうがリズムコントロール療法よりも優先順位が高くなっています。(*12)
リズムコントロールとレートコントロールを比較した代表的な試験が、「AFFIRM試験(アファーム:Atrial Fibrillation Follow-up Investigation of Rhythm Management)」です。(*13)
この試験の概要は、4060人の患者を2群に分け、一方の群には、抗不整脈薬や電気ショックで洞調律に戻す「リズムコントロール治療」を、もう一方の群には、心房細動はそのままに、安静時の心拍数を80拍/分以下に維持する「レートコントロール治療」を行い、5年間観察し、死亡者数を比較するというものです。
レートコントロール治療に用いられる薬は、前述したカルシウム拮抗薬、β受容体遮断薬、ジギタリスです。
一般的に、心房細動がない人に比べ、心房細動がある人の死亡リスクは1.5倍から3.5倍高くなり、心不全の合併も3割に認められることがわかっています。(*14)
そうであれば、心房細動を洞調律に戻すリズムコントロール治療を受けた人のほうが、レートコントロール治療を受けた人よりも、死亡率は低くなるはずです。ところが試験の結果、この2つの治療方法には、死亡率において差がないことが明らかになったのです。


この研究結果が報告されて以降、症状の乏しい持続性、慢性心房細動に対しては、「心房細動はそのままにして無理に洞調律に戻さず、心拍数だけ速くならないようにするレートコントロール治療で十分」という考えが、医師の間で急速に広まりました。
このような結果になった理由のひとつは、リズムコントロール治療で洞調律に維持され、死亡率が低下しても、使用された抗不整脈薬の副作用(心機能低下、間質性肺炎、催不整脈作用)によって、その効果が相殺されたことにあるのではないかといわれています。
(*12) 心房細動の薬物によるレートコントロール療法
(*13) Wyse DG, Waldo AL, DiMarco JP, Domanski MJ, Rosenberg Y, Schron EB, Kellen JC, Greene HL, Mickel MC, Dalquist JE, Corley SD ; Atrial Fibrillation Follow-up Investigation of Rhythm Management(AFFIRM)Investigators : A comparison of rate control and rhythm control in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med, 2002 ; 347 : 1825 ~ 1833
(*14)公益財団法人 日本心臓財団
AFFIRM試験の誤解
このAFFIRM試験の結果が公表されてから、循環器医の間では心房細動を洞調律に戻そうという意欲が急速に冷めてきました。
心房細動による症状が強い患者さんにも、「リズムコントロールを行おうが、レートコントロールを行おうが、あなたの死亡率は変わらないから、心房細動のままで我慢しなさい」という説明がまかり通るようになってきたのです。
患者さんにとっては、このつらい症状をなんとかしてほしいと思っているのに、とんでもない話です。
AFFIRM試験は、Intention to treat analysisという方法で解析されました。これは治療を行った結果、洞調律に復したのか、それとも心房細動のままだったのかは完全に無視します。
「リズムコントロール」「レートコントロール」のどちらの治療を選択したのかという観点から死亡率を比較したものであり、心房細動と洞調律の死亡率を比べたわけではないのです。
Intention to treat analysisの反対が、On treatment analysisという解析方法です。これは治療の結果、洞調律に復した患者さんと、心房細動のままだった患者さんの死亡率を比べる方法です。
これでAFFIRM試験を再度解析すると、どちらの治療方法を選ぼうが、結果的に洞調律に復した患者さんのほうが、心房細動のままだった患者さんよりも、死亡するリスクは半分になりました。
もう少し細かい解析をすると、抗不整脈薬を内服せずに洞調律を維持できた患者さんの死亡のリスクが最も低く、その次に、抗不整脈薬を使用して洞調律を維持できた患者さんの死亡率が低かった、ということがわかりました。
たとえ抗不整脈薬を使用しても、洞調律を維持できれば、心房細動のままの患者さんよりは、死亡率は低かったということです。
まとめると、持続性心房細動や慢性心房細動の場合、死亡率を下げるという観点から考えれば、抗不整脈薬と電気ショックを使用してでも、「一旦洞調律に戻す治療」を試みるのは、良い方法だということです。
もし、その治療がうまくいかないなら、同じ方法を繰り返すのではなく、レートコントロール治療にしたほうがよい、また、抗不整脈薬を使用して洞調律が維持されているならば、あえて抗不整脈薬を中止して元の心房細動に戻すような治療はよくないということです。
優れた研究であっても、解釈を間違えると誤った治療を進めることになるので、注意が必要です。

AFFIRM試験は、心房細動治療におけるリズムコントロールとレートコントロールを比較した大規模研究です。全体の死亡率に差はないとされましたが、再解析では洞調律を維持できた患者の予後が良好であったとの報告もあります。個々の状態に応じた柔軟な治療判断が重要です。
まとめ
心房細動の薬物治療は研究が進み、一昔前の常識が覆されるなど見直しが進んでいます。「以前は治らなかった」という場合も、最新の知見では改善が期待できるかもしれません。もし心房細動の症状がおさまらないなど悩んでいる場合には、セカンドオピニオンを求めるのも一つの手かもしれません。

心房細動の薬物療法は、「抗凝固療法」「レートコントロール」「リズムコントロール」の3つに大別され、脳梗塞予防と症状緩和を目的に個別の状態に応じて選択されます。近年では心拍数を調整するレートコントロールが優先される傾向にありますが、洞調律の維持が予後改善に寄与する可能性も再評価されており、適切な治療戦略の見直しが重要です。
心房細動は早期発見と治療が鍵です


心房細動は放置すると、脳梗塞や心不全など重篤な合併症を引き起こすリスクがありますが、早期発見と適切な治療により予後の改善が可能です。
当院では、心電図検査などによる正確な診断はもちろん、薬物治療に加えてカテーテルアブレーションによる根治治療にも対応しております。
動悸や息切れなど、気になる症状がある方は、どうかそのままにせずご相談ください。専門医が一人ひとりに最適な治療をご提案いたします。初診のご予約は、WEBまたはお電話にて受け付けております。