はじめに
心房細動は、脳梗塞の大きな原因の一つです。
ところが、心房細動があっても、動悸などの症状を感じない方は少なくありません。
そのため、症状のないうちから検査を行い、心房細動を早期に発見すれば、脳梗塞を予防できるのではないかと考えられてきました。
最近では、長時間心電図だけでなく、Apple Watchなどのウェアラブル端末でも、脈の乱れを捉えられるようになっています。
しかし、検査機器の進歩によって、これまで見えなかったごく短い心房細動まで見つかるようになり、新しい問題も生まれました。
心房細動は、見つければ見つけるほどよいのでしょうか。
2026年に医学誌『Heart』に掲載された総説では、これまでに行われた大規模な心房細動スクリーニング研究がまとめられています。
その結果は、必ずしも単純なものではありませんでした。
心房細動を多く見つけても、脳梗塞が減るとは限らない
植込み型心電計などを用いて心拍を長期間監視すると、通常の診療よりもはるかに多くの心房細動が見つかります。
ある大規模研究では、心房細動の発見率は通常診療の約12%に対し、長期間モニタリングを行ったグループでは約32%に達しました。
ところが、心房細動をこれだけ多く発見できたにもかかわらず、脳梗塞は統計学的に明らかには減少しませんでした。
この結果は、心房細動を見つけることに意味がない、ということではありません。
重要なのは、精密に調べて見つかった心房細動が、すべて同じ意味を持つとは限らないということです。
長期間調べれば、数分から数十分だけ生じる短い心房細動まで見つかります。
しかし、このような短時間の心房細動が、通常の診療で発見される持続時間の長い心房細動と同じ程度に脳梗塞を引き起こすのかは、まだ十分には分かっていません。
大切なのは、単に「心房細動があるか、ないか」だけではなく、
「どのくらい長く、どのくらい頻繁に起きているのか」
そして、「その方がもともとどの程度の脳梗塞リスクを持っているのか」
まで考えることです。


Apple Watchから通知が来たらどうする?
こうした問題は、Apple Watchなどのウェアラブル端末にもつながります。
Apple Watchから不整脈の通知が届くことは、心房細動に気づく重要なきっかけになります。
しかし、通知は心房細動の確定診断そのものではありません。
まず、本当に心房細動なのかを心電図で確認します。
記録された波形だけでは判断が難しければ、通常の心電図や長時間心電図を追加します。
心房細動が確認された場合は、年齢、高血圧、糖尿病、心不全、脳梗塞の既往などから脳梗塞リスクを評価し、抗凝固薬が必要かどうかを判断します。
特に、機器によって偶然捉えられたごく短時間の心房細動では、その持続時間や頻度も含めた慎重な判断が必要です。
一方、通知がないから心房細動がないとも言い切れません。
発作性心房細動は、記録している時間に発作が起きなければ見つからないからです。
検査を考えたほうがよい方
すべての方に長期間の心電図検査が必要なわけではありません。
一方、次のような方には、心房細動の検査を検討する意味があります。
- 脈の乱れや動悸を感じる
- 健診で不整脈を指摘された
- Apple Watchなどから不整脈の通知を受けた
- 原因の分からない脳梗塞を経験した
- 高齢で、高血圧や糖尿病など複数のリスクがある
大切なのは、「発見すること」から「意味を判断すること」へ
心房細動の早期発見は大切です。
しかし、精密に調べるほどよい、見つかった心房細動をすべて同じように治療すればよい、というほど単純ではありません。
検査機器の進歩によって、「心房細動を見つけられるか」という問題から、「見つかった心房細動に、どの程度の臨床的な意味があるのか」を考える時代になっています。
誰を、どの方法で、どのくらいの期間調べるのか。
そして、見つかった心房細動をどのように治療するのか。
一人ひとりの脳梗塞リスクと合わせて判断する必要があります。
Apple Watchなどから不整脈や心房細動の通知を受けた方、健診で不整脈を指摘された方は、通知画面や記録された心電図を消さずにお持ちください。
東京ハートリズムクリニックでは、診察時の心電図だけでなく、症状の頻度や状況に応じて、長時間心電図など適切な検査方法をご提案します。
【執筆】井上健司
東京ハートリズムクリニック新宿 院長
専門領域
・虚血性心疾患
・総合内科専門医・指導医
・日本循環器学会専門医
【参考文献】
Svennberg E, Khan M Present state and future of screening for atrial fibrillation: a state-of-the-art review
Heart Published Online First: 26 February 2026. doi: 10.1136/heartjnl-2025-326121
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