心房細動と脳梗塞の話は有名になった。だから、もう一歩深く
心房細動が脳梗塞につながる、という話は、最近ではテレビやインターネットでもよく見かけるようになりました。
このブログを読まれている方の中にも、「血栓ができて、脳に飛ぶんですよね?」と、すでに概要をご存じの方も多いと思います。

そこで今回は、その一歩先として、「なぜ左心耳(さしんじ)が問題になるのか」「本当に閉じてしまえばよいのか」という点を、もう少し深堀してみます。
左心耳とは、左心房の横に付いた袋状の小さな構造です。耳のような形をしているため、心耳と呼ばれています。一見すると目立たない場所ですが、心房細動と脳梗塞を考えるうえで、きわめて重要な役割を担っています。
左心耳は、流れと形の両方で血栓ができやすい
心房細動になると、心房は規則正しく収縮できなくなり、血液を前へ押し出す力が弱くなります。その結果、心房内の血流はよどみます。
このとき、特に影響を受けやすいのが左心耳です。左心耳の内側は平らではなく、細かなしわやひだが幾重にも重なった、ざらざらした構造をしています。例えるなら、なめらかなコップではなく、スポンジや洞窟のような形です。
血液の流れが弱くなると、この凹凸のすき間に血液が入り込み、外へ出にくくなります。動かない血液は固まりやすく、こうして血栓が形成されます。
実は右心房にも右心耳がありますが、右心耳の内側は比較的なめらかで、血液がたまりにくい形をしています。この構造の違いが、左心耳だけが血栓の主な発生場所になる大きな理由です。
つまり心房細動では、「血液が流れにくくなる」ことに加えて、「左心耳の形そのものが血栓を作りやすい」という条件が重なっているのです。
左心耳は「危険」だが、「不要」ではない
このような理由から、左心耳を閉じる治療が注目されてきました。確かに左心耳は、脳梗塞の出発点になり得る場所です。
しかし、左心耳は単なる血栓の袋ではありません。
左心耳閉鎖術後には、ANPやBNPといったホルモンの分泌が一時的に変動し、血圧低下や体液バランスの変化が起こることがあります。多くの場合、数か月かけて心房の他の部分が代償しますが、閉鎖の方法によっては、血圧調節や代謝ホルモンへの影響が目立つとする報告もあります。
左心耳は確かに血栓の温床になり得ますが、同時に心臓全体のバランスを保つ役割も担っている、非常に繊細な構造なのです。
だからこそ、「左心耳を閉じればすべて解決」という単純な話にはなりません。そもそも左心耳が問題になる根本原因は、心房細動によって血液がよどむことにあります。
特に悩ましいのが、動悸や息切れといった自覚症状がまったくない、いわゆる無症候性の心房細動です。症状がないと、「本当に治療が必要なのか」「様子を見てよいのではないか」と迷われる方も少なくありません。
しかし、血栓ができやすくなる条件は、症状の有無とは必ずしも一致しません。左心耳の構造や血流の変化は、気づかないところで進行していることもあります。
次回は、この無症候性の心房細動とどう向き合うべきなのか、放置してよいケースと、そうでないケースの違いを、もう少し具体的に整理していきます。

