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【THR通信】飲酒と心房細動(2021年3月号)

【THR通信】飲酒と心房細動(2021年3月号)

「心房細動アブレーション後、お酒はいつから大丈夫でしょうか?」 患者さんからよく聞かれる質問です。 手術後1ヶ月間は、心房食道瘻という重篤な合併症を避けるためにも、「残念ですがアルコールは禁止です」という説明をします。 では、1ヶ月以降はどうでしょうか。「適量ならいいんじゃ…ない…でしょうか。」 というのも、アルコールは加齢、高血圧(心臓病)と並んで心房細動の3大要因のひとつであり、飲まないにこしたことはないという反面、禁酒を告げたときの患者さんのがっかりした顔を見たくないという気持ちの間で揺れ動くためです。 現在までに1日2杯以上のアルコールを摂取する(1杯の基準量はアルコール12g ≒ ビール約300ml 相当)と、心房細動のリスクが上昇することが報告1)されているため、ぎりぎり1日1杯までなら適量として容認するのもありかと考えていました。 しかし、最近ではアルコール好きにとっては、nagativeなデータを度々目にするようになってきました。 2020年1月New England Journal of Medicine誌に発表された研究2)では、断酒により心房細動の再発を低下させることが報告されました。この研究では、週に10杯以上のアルコールを摂取していた心房細動患者を対象に、断酒する群と、飲酒を継続する対照群に無作為に割り付けて6ヶ月間の追跡を行いました。 結果、心房細動の再発率は、対照群73%に対して、断酒群では53%と有意に低下が見られ、心房細動の持続時間も短かった。 これは、アルコールの摂取量を減らすことで心房細動の再発率を低下させうるということを、前向きの無作為化比較試験で示したという点で目新しいものです。さらに、適量とされてきた1日1杯の飲酒でも、心房細動のリスクが高まる可能性が、ドイツの大規模研究3)で明らかにされ、2021年1月European Heart Journal誌に報告されました。 この研究では、アルコールを摂取しない人に比べて、1日1杯のアルコール摂取で心房細動のリスクが16%上昇し、2杯で36%、3杯で52%、4杯で59%、5杯以上で61%と摂取量と共に関連性が強まることが示唆されています。適度な飲酒は心臓病に良いとする報告もありますが、心房細動に限ってはそうもいかないようです。ちなみに私はお酒が全く飲めません。下戸です。しかし、大好きなコーヒーが駄目だと言われたら、それはとても辛いであろうことは想像に難くありません。今日も迷いながら、しかし新しい知見と客観的なデータに基づいてお話するように心がけて参ります。 槇田 俊生 ※槇田Dr外来/毎週火曜午後・金曜・土曜 参考文献: 1. Alcohol consumption and risk of atrial fibrillation: a prospective study and dose-response meta-analysis. J Am Coll Cardiol. 2014;64:281-289 2. Alcohol abstinence in drinkers with atrial fibrillation. N Engl J Med. 2020;382:20-28 3. Alcohol consumption, cardiac biomarkers, and risk of atrial fibrillation and adverse outcomes. Eur Heart J. 2021 Jan 13 online ahead of print